魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

650. 新しい行事が増えますね

 あれこれ聞きだした結果、アンナ自身もさほど詳しいわけではないと分かった。彼女が生まれた異世界に『カカオ豆』と呼ぶ種子があり、砂糖を加えるとチョコレートの原料となるらしい。この世界にもチョコレートは存在するが、カカオ豆は使わなかった。


「……カカオを使わないチョコ、ですか? そういえば、この世界に来てチョコを食べたわ」


 お茶の時間に供されたことがあると、アンナも唸ってしまった。異世界はカカオからチョコを作り、この世界でチョコは卵の中から生まれるものだ。現在のピヨくらい、つまり牛サイズの鶏が10個に1個くらいの割合で産み落とす黒卵の中身が、チョコレートの原料だった。


 その話を聞いたアンナは目を輝かせ、ぜひ見たいと申し出る。食べた時に違和感がなかったから、味は同じチョコレートだろう。しかし見た目が真逆の卵と聞き、これぞ異世界とテンションが上がる。折角だからアベルも誘って、兄と一緒に見に行こうと決めた。


「イフリートに聞けば入荷日がわかるだろう。それより、カカオ豆とやらの使い道を調べる方法はないか」


 入荷したら見せると告げ、別の使用方法を探ろうと尋ねる。少し首をかしげて考えたアンナは、ぽんと手を打った。


「お兄ちゃんなら知ってると思います」


 突然イザヤの名が出て、全員が不思議そうな顔をする。武道を嗜み、数字に強い彼は文官より武官に近い体つきだった。そんな彼が食材に詳しい? いや、もしかしたら雑学含めた知識があるという意味か。様々な憶測が過る中、アンナは笑顔で言い放った。


「お兄ちゃん、お菓子作りが得意なんです。可愛いでしょう?」


 人族にしては大柄な身体、剣胼胝があるごつごつとした手、美形ではないがアンナによく似た面差しの青年は……お菓子作りという単語からほど遠い。しかし妹アンナに手作りの菓子を振る舞った兄は、驚くほど器用に繊細な菓子を作るのだ。


「……イザヤを呼ぼう」


「お兄ちゃんなら、今日は城門の書類整理です」


 兄のスケジュールを管理する妹の発言に、エルフが一人走り出した。大急ぎで連れ帰る間、彼女達はカカオの実を手に雑談を繰り広げる。


「チョコと言えば、そろそろ『バレンタイン』の時期ですね。懐かしいわ」


 聞いたことのない単語に、全員が食いついた。


「「「バレンタイン?」」」


「なぁに? それ」


 ココアもチョコレートも知っているが、何か新しい食べ物や飲み物か。娯楽に飢えた長寿種族に囲まれ、アンナはにこにこと笑いながら説明を始めた。


「2/14に、好きな異性にチョコレートを渡して告白するイベントです。お世話になった人や親にも渡したり……好きなのに恥ずかしいから誤魔化す『なんちゃって義理チョコ』も」


「ルシファー」


「なんだ?」


 目を輝かせるリリスの次の言葉は予想がついた。自分もバレンタインをしたいのだろう。反対する理由はないので頷くつもりで待てば、ある意味想定内だが、一部想定外の発言があった。


「バレンタインして、皆にチョコをあげたいわ! アシュタやベルちゃん、ロキちゃん、異性じゃないけどベルゼ姉さんやルカ、シア、リー、ライも。ヤンやピヨも食べられるかしら」


 オレの名がないんだが?


 絶世の美貌を引きつらせながら「他には?」と自分の名をせがむ魔王。無邪気に微笑んだリリスに、アンナが横から爆弾を投下する。


「友チョコで交換もありですね」


「素敵! アンナちゃんも交換しましょうね」


 ……やっぱりオレは忘れられてるのか? 泣きたい気分でリリスの手を握ると、くすくす笑うリリスが腕の中に転がり込んできた。そのまま抱き着いて、上目遣いに見上げる。


「パパとルシファーには2つ作るわ。だって娘でお嫁さんだもの」


「ありがとう、リリス。それならオレも作ってみようかな。愛らしい娘とお嫁さんの分を」


 ちゅっと音を立てて額にキスを降らせると、アンナとエルフが数歩下がった。邪魔をしないように気を使ったところに、イザヤが駆けてくる。どうやら一緒にいて回収されたらしいアベルが、甘い空気を壊す発言をした。


「リア充、爆発しろぉ!!」

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