魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

649. 異世界の果実は……

 温泉街に不思議な木が生えてきた。そんな噂が飛び込んだのは、即位記念祭まで2ヶ月をきった暖かい日の事だ。エルフ達がその珍しい木の苗木を手に入れたらしく、温室に植える騒ぎに出くわした。


「……これが、あの亀が持ち込んだ種子か」


 片手に乗るほどの実がなり、その中に小さな種がびっしりと詰まっていた。以前に空から降ってきた異世界の亀を退治して食べたが、あのスッポンが持ち込んだ種らしい。というのも、使えそうな部分を剥ぎ、肉を食べた後の亀を埋めた場所から木が生えてきた。


 最終処分として火口で燃そうと運んだベルゼビュートだったが、数年前にピヨを落とした火口は凍って溶けた後で荒れていた。ここに得体の知れない亀を捨てて、もし復活でもされたら困る。そう考えたベルゼビュートが魔法で穴を掘って埋めたのだ。


 地脈の中でも活性化した龍脈の真上にある火山は魔力が豊富だ。その周辺土壌も推して知るべし。豊かな大地に蒔かれた種はすくすくと育ち、気づけば8mほどの立派な大木となった。問題は、そこに実がついたことだ。中身が魔物だったら困ると割ったところ、普通の種子が詰まっている。


 木の実や薬草に詳しい彼女らも初めて見る果実だったため、大切に持ち帰った。加工方法が分からず調べる間放置した種を、ベルゼビュートの提案で魔王城の温室に植えるらしい。ルキフェルが種の研究をすると言っていたので、研究用としての植樹だろう。


 エルフの里で貯蔵された実は茶色く枯れ、中は5つの種が花に似た形状で並んでいた。隙間を埋める綿に似た果実は、実の外側が青い頃は白かったというが、今は薄い茶色でやはり枯れている。


「変な種ね。お花みたいだわ」


 リリスが覗き込むと、後ろのイポスが慌てて数歩前に出た。種に危険があれば、手で庇える位置に移動したのだ。無防備な主を持つと苦労する。典型のような光景にルシファーは苦笑いした。他人事のように振る舞うが、彼自身に周囲をヤキモキさせる名人の自覚はない。


「魔力で成長促進してみようかと考えております」


 そのための魔法陣はルキフェルに作ってもらった。エルフ達は種を地面に植えると、上から水を掛けて土を乗せる。預かった魔法陣を乗せて、魔王城の地下を流れる地脈の流れと繋いだ。手際がいいのは、薔薇や庭のトネリコを移植した時に同じ手順を踏んだから。慣れた作業を終えると、手についた土を払った。


「これで明日には芽吹くと思います」


「それは凄いな」


 感心するルシファーの手に、まだ残り半分の実が握られている。それも植えるのならば返そうとしたところに、後ろから声がかかった。


「魔王様、お久しぶりです。お姫様もご機嫌よう」


 振り返った先に、黒髪の少女がいた。リリスより3歳年上になるアンナは、ラベンダーのワンピース姿だった。オフホワイトの長袖ボレロで手の甲まで覆うことで、ノースリーブのワンピースによる肌寒さを補ったのだろう。


 最近は文官として仕事をこなす彼女は、黒髪をきっちりお団子に結っていた。清潔感がある元聖女が覚えたてのカーテシーで挨拶を締めくくる。


「ああ、久しぶりだ」


「私は皆と一緒にお勉強で会うわ」


 マナーやダンスを極めるのだと勉強を再開したリリスは、会釈で返した。魔王妃であるリリスが跪礼をする相手はルシファーのみ。そしてルシファー自身が望まないとなれば、リリスがカーテシーを披露する場所はない。そのため会釈の角度や姿勢を綺麗に保つレッスンを始めた。


「手にしておられる、それ……桔梗みたいな種の並びがに似ています」


 何気なく会話の切っ掛けとして口にした単語に、エルフ達が食いついた。


「歓談中失礼いたします。アンナ殿は、この種をご存じなのですか?!」


「使い方はわかりますか」


「何か効能などはありませんか!」


 長い薄緑の髪と尖った耳が特徴のエルフ達に囲まれ、アンナは困惑顔で首をかしげた。


「何か変なこと言ったかしら」

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