魔王様、溺愛しすぎです!
638. 誇り高い野犬狩り
「貴様っ! 魔王の手先か」
「魔王の犬め!」
きゃんきゃん騒ぎ立てる獣人達をじっくり観察して、ひらりと彼らの前に飛び降りる。整いすぎて人形のような顔に、満面の笑みが浮かんだ。この場にルシファーが居たら、顔を引きつらせて逃げるほど機嫌のいい顔だ。弧を描いた口が開く。
「魔王の犬、ですか……素敵な称号ですね。野犬にもらえるとは思いませんでした」
魔王の治世が長すぎることで、権力構造は固定している。魔王と4人の大公が頂点に立ち、実力で成り上がる貴族が名を連ねた。ほぼすべての種族から意見を吸い上げるため、アルラウネやラミアのように身を守れない種族からも貴族が選出される。それを良しとしない勢力がいた。
獣人系やドラゴン系の一部である。彼らは元の分母となる数が多い。そのため貴族を選出した際、ある程度の強さを持っていても対象から漏れるのだ。弱くていつでも殺せる奴が貴族となるのに、強い自分達が貴族となれず損をしている……そう考える者が出た。
彼らの言い分は『弱肉強食の掟に反する』というものだが、ルシファー達に言わせれば矛盾しない。貴族は力のバロメーターで与えられる地位ではなく、種族の代表者である。特殊な環境が整わなければ生きられない種族もいるため、何か公共事業や種族の領地替えが起きた際に意見を聞く必要があった。
弱い種族に貴族が存在するのは、代表者として意見を聞く相手に過ぎない。しかし代表者を決める方法は各種族に一任されていた。その部分で獣人は「強い者が貴族になる」と決めただけで、魔王側が強い獣人を貴族として差し出せと命じたのではない。
自分達の理論で勝手に他種族を迫害する勢力は、取り締まりの対象だった。ある程度狩ってもまた出現するため、定期的にアスタロトやベールが数を調整している。完全に絶滅させない理由は、この考え方も魔族の一部であるとルシファーが許容の姿勢を見せたため。
弱者を害するほど増えれば減らし、常に上限を超えないよう管理した。前回の調整は20年ほど前で、ここ十数年忙しかったので放置している。
そろそろ狩っても構わないでしょう。アスタロトが羽を広げ、頭の角を解放する。角を出すと吸血鬼特有の魅了が解放されるため、普段は封じていた。
「犬ではない! 我々は誇り高きっ!」
「確かに失言でしたね」
すぐに言い直したアスタロトに、彼らは一瞬声を飲んだ。しかし次に暴言が浴びさせられる。
「誇り高い犬ならば、吠える時期を弁えています」
言外に犬にも劣ると笑いながら、剣を引き抜いた。銀の刃は光が当たると虹色に反射する。様々な属性を持つアスタロトの魔力の色を映し出す鏡だった。
「半分ほどにしましょうか」
すべて狩るのは魔王の意志に反する。そう匂わせた残忍な男が、手近な3人の男達へ斬りかかった。逃げる彼らの耳や尻尾を掠めた刃は、そのまま奥にいたひと際巨体の男へ向かう。斬りかかられ咄嗟に逃げてしまい、正面を開けた。守るべきトップへ道をあけた彼らの愚かさを嘲笑い、アスタロトが剣を振るう。
「この方が剣ごときで……」
「そうだ! 己の無力さを知るがいい」
好き勝手叫んだ男達。踏み込んだ流れに踊るアスタロトの金髪がふわりと肩を覆う。振り抜かれた剣先、両足で立ち続ける大男――熊の獣人であるトップが、ぐらりと倒れた。直後に胸から大量の血が流れだす。
「ばかな!」
「その無駄な自信の根拠はわかりませんが……獣人は見た目に騙される方が多い」
くすくす笑うアスタロトは、魔力で熊の獣人を拘束した。両手両足を縛って転がし、次の獲物を選び始める。選ぶ基準は特に決まっていないが、他種族に害をなしそうな者から拘束することにしていた。つまり血の気が多く、喧嘩早い者――叫んでいた彼らが該当する。
「あなたとあなた、それから……あなたもご一緒願いしましょう」
血を払った剣を無造作にぶら下げて、アスタロトは凄絶な笑みを浮かべた。
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