魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

623. 何か欠けています

 積まれた書類を淡々と片付けていく。時々様子を伺うが、リリスはまだ目覚めそうになかった。黙々と書類に目をとおすルシファーは、時折修正しながら署名を行う。事情説明は後だと言われたため、大人しく仕事するあたりが真面目だ。


「今回は許しますが、次はありません。焼き鳥とドラゴン唐揚げにしますからね」


「「はい、ごめんなさい」」


 翡翠竜と鸞がそろって頭を下げる。魔王の頭を足蹴にした代償は、記憶を戻すきっかけになったという実績を差し引いて――説教となった。ピヨの保護者であるヤンが、扉の前をそわそわ行き来しながら覗く。きちんとピヨが謝れた場面では、何やら感激していた。


「署名が終わったぞ」


 アスタロトが運んだ分は終わらせたと声をかける。リリスの状態を説明してもらいたいので、可能な限り迅速に頑張った。署名欄の文字が多少乱れているのは許してほしい。


「ルシファーが戻ったって?!」


 ルキフェルがノックもなしに扉を開ける。続いて、アベルとベルゼビュートが騒がしく入室した。


「あれから半日だろ?! 魔王様のスペック、やばいな」


「陛下! 良かったですわ」


 何を言われたのかわからず、きょとんとした顔の魔王を置き去りに、周囲は盛り上がった。


「陛下。心配いたしました」


「あ、ああ」


 ベールまで心配させたらしいが、リリスはそんなに長く起きないのか? 春先は眠くなると聞くが、関係あるだろうか。的外れな考えに首を横に振った。


「ルシファー様、聞いていましたか?」


「あ、悪い。聞き逃した」


「どこからですか?」


「頭から頼む」


 全部意識の外だったと白状するが、アスタロトは呆れ顔をしても咎めなかった。


「私室が爆発したことを、覚えておられますか」


 問われて頷く。鮮明に覚えているのは、リリスを庇った瞬間に目に焼き付いた、眩しい光だった。


 ダンスの練習を終えて、戻った私室を開けたら爆発した。巻き込まれそうになり、咄嗟に身を挺してリリスを庇った。背中や首筋、肩に激痛が走る。結界を通り抜けた痛みに、そのまま意識を失ったのだろう。


 さきほどアベルも口にしたが、半日ほど感覚がズレている。彼女が目覚めないように、自分も倒れていたと考えた。


「リリスを庇って……そうだ、リリスにケガはないよな?」


「はい、ご安心ください。リリス姫のケガは小さなものばかりでした。すでに治療済みです」


 アスタロトの穏やかな言い方に、ほっと安堵の息をついた。倒れていた自分達を彼らに助けられ、半日近く意識がなかったのだと判断する。痛かった背中も元に戻って、着替えもしていた。リリスがダンスの時に纏ったのはオレンジ色のワンピースだった。今は淡いピンク色で、髪型も違っている。部屋の入り口近くで涙ぐんでいる少女達や、大公が全員揃ったのは、それだけ時間が経った証拠だろう。


「助けてくれたのか、ありがとう」


「いいえ、部屋の状態を確認なさいますか?」


「今はリリスのそばにいよう」


 断ったルシファーの態度に、連れ出し損ねたアスタロトがルキフェルへ目配せを行う。心得たようにルキフェルが近づいて、ルシファーの手を掴んだ。幼子として接した時間が長いため、身長差を埋める仕草で目を合わせようとする。すこし屈んだ魔王へ無邪気さを作って誘った。


「城の魔法陣を再構築したから確認してほしい。今日中に仕掛けるつもりなんだ。リリスやルシファーの安全のためだから、お願い」


 そう頼まれると、今回の騒動後のわずかな時間にルキフェルが頑張ってくれたことが伝わり、断れなくなった。彼に引っ張られるまま、ルシファーは別室へ向かう。後ろ髪を引かれるようにリリスを振り返った。


「姫がお目覚めになりましたら、すぐにご案内させていただきます」


「悪いが頼むぞ」


 護衛のイポスの提案に頷き、ルシファーはようやく部屋をでた。不自然に見えないよう、丁寧にベールが一礼して後に続く。


 アスタロトが大きく息をついた。


「さて、今のうちに確認しなくてはなりませんね」


「びっくりしたわ。陛下の記憶が混乱しているように見えたわ」


「記憶喪失の間の出来事が消えて、爆破直後から今に直接繋がっている感じです」


 ベルゼビュートと交わした会話に、翡翠竜が口を挟んだ。


「全部話すのかい?」


「そう考えておりましたが……リリス姫にご指示を仰ぎたかったのですよ」


 苦笑いしたアスタロトに、愛らしい声が重なった。


「私は……いやよ」

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