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魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

585. 狩りの現場は大惨事

 ばんっ! 後ろで何かが爆発した音がして、煙に視界を遮られる。結界に覆われたルシファーとリリスは問題ないが、悲鳴が聞こえたので風を操って煙を巻き上げた。竜巻状態になった煙を外へ放出すれば、ひらけた視界は驚く光景が広がっていた。


 魔の森の木々が倒れ、圧し潰された魔獣や魔族が倒れている。誰かの使った魔法が暴発したようで、ちらちらと火が出ていた。数十人規模の被害が出た現場で、リリスが「痛そう」と眉尻を下げる。近くの獣人に魔力を注いだ。血が流れる惨状にルシファーも眉をひそめる。


「……治癒が優先か。ベルゼビュート、来い」


 もう少し早く止めるべきだったか。


 失敗したと溜め息を吐いたルシファーの前に、ベルゼビュートが現れる。転移魔法陣の光が消え、大きな胸をタオルで押さえた女性が頭を下げた。


「お呼びに従い、御前に」


「呼んだが……取り込み中か?」


 どう見ても入浴中に呼び出され、裸体にタオルを巻いて駆け付けた姿にしか見えない。状況を事前に知っていたら、ルキフェルを呼んだのにと頭を抱えた。髪もくるりと巻いて仮留めした状態だ。


「着替えますので問題ありませんわ……それより、襲撃でもされましたの?」


 収納から取り出したドレスをするりと纏う美女は、人前でも平気でタオルを外して裸体を晒す。精霊や妖精は裸体が基本という性質もあり、他人の目は気にしない者が多かった。最近生まれた個体はそうでもないが、原始から存在するベルゼビュートは躊躇ためらわず脱ぐ。


 足元から彼女を見上げる獣人が「いい……」と顔を真っ赤にして呟いた。しかし、木に腹を圧迫された状況でいいわけがない。他にも爆風で吹き飛ばされた青年が鼻血を垂らし、興奮したドラゴンが蹲っていた。刺激が強すぎるようだ。


「狩りで誰ぞ失敗したらしい。手伝ってくれ」


「……あらまあ、東側は私が担当しますわね」


 ケガの種類が多いので、手分けして治癒と救助を行うことになった。すたすたと背を向けて歩いていくベルゼビュートに、リリスが声を張り上げる。


「ベルゼ姉さん、後ろ見えてるわ!」


「後ろ? ああ、スリットが後ろにありますのよ」


「そうじゃなく、尻まで丸見えだ」


 着用時に絡まった布が捲れており、後ろが丸見えなのだ。背中部分が大きく開いた服なのはいつものことだが、スリットどころか腰骨の位置まで晒していた。さすがに服のデザインではないだろう。


「やだ……本当! これは叱られるわ」


 アスタロトかベール辺りに……そんなニュアンスの呟きしか漏れないところが、ベルゼビュートに夫が出来ない理由だった。いい仲になりかけても、部屋も外も関係なく裸体で歩き回ったりするので、色気もへったくれもないらしい。数十年で別れるのを繰り返してきた。


「ベルゼ姉さんに、誰も淑女のマナーを教えなかったの?」


「教えたが聞いていなかった」


 何度も教えてきた。数万年にわたる努力の結果、アスタロトですら匙を投げた。完全にお手上げ状態である。いくら説明しても淑女には程遠い彼女だが、最低限の礼儀作法を覚えさせたのでベールも含めて諦め半分だった。労力と結果が見合わない。


 まくれていたスカート部分を戻し、しゃなりしゃなりと歩く美女は魔法を駆使して木々をどけた。倒れている人に治癒を施していく。やれば出来るのだが、あれこれ欠陥の多い人である。


「リリス、治癒を手伝ってくれ」


「わかったわ」


 魔法陣を呼び出して倒木を一時的に収納していく。対象物を指定して回収する魔法陣は、折れた木材を一時的に消し去った。上に乗っていた重石がなくなれば、自力で立ち上がる者も出てくる。動けない者を優先して治癒しながら、ケガ人を分類した。


 万能で何にでも効果のある治癒魔法陣は開発されていない。病気やケガなど症状に応じて使い分けるのが一般的だった。骨折と切り傷を同時に治療するなら、魔法の方が向いている。ただし、魔法陣のように魔力の消費を抑える効果がないため、魔力の使い過ぎに注意が必要だった。


 幸いにしてリリスもルシファーも魔力は豊富だ。遠慮なく治癒魔法を使いながら、軽傷者はまとめて魔法陣を適用する柔軟さで治癒し続けた。獣人の骨折を治せば、今度は彼が新しいケガ人を運んでくる。助けられた者が率先して動いてくれたため、効率よく治癒が終わった。


「終わりか?」


「うん」


 見回す範囲にケガ人は見当たらず、ベルゼビュートもふらふらと戻ってきた。魔王との戦いで消費した魔力が完全回復しない状態で、大量の魔力を放出したので酔ったらしい。


「こちらも、終わりましたわ」


「ああ、ご苦労」


 労って、今後の手配のためにベールを呼び出した。魔王軍の一部が職務に復帰し、一般人の誘導や介助を始めている。この場は魔王軍の指揮官であるベールの管轄とするのが正しいだろう。爆発の原因が判明したのは数日後だった。


 提出された報告書によれば、腹を開けて内臓を魔獣に分けようとした獣人が振るった水の刃に、ドラゴンのブレスが直撃したらしい。いわゆる水蒸気爆発が起き、周囲一帯を吹き飛ばしたのだ。当事者には厳重注意を与え、コカトリス狩りは終了した。

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