魔王様、溺愛しすぎです!
583. 大量発生したようです
「おはよう、リリス」
悪戯を見つかったリリスは、抱き締めるルシファーの腕に頬を寄せる。
「おはよ、ルシファー」
額や頬に降り注ぐキスを受け止めて、擽ったさに首をすくめた。そこを狙ったように、露わになった首にも唇が寄せられる。触れて離れたキスに笑いながら、シーツに潜り込んだ。
「……睦み合いの邪魔をするのは蹴られそうですが、そろそろ起きてください」
苦笑するアスタロトの声に、ルシファーがむっとした顔で身を起こす。相変わらず自らを着飾ることに興味がないので、パチンと指を鳴らして着替えた。シーツに隠れたリリスを抱き上げたルシファーが、すたすたとリビングを通り抜ける。廊下が接しないリリスの私室の長椅子に、シーツにくるまれたお姫様を下した。
「今日は何色がいい?」
「グリーン」
シーツで顔が見えないリリスの要望に従い、淡いグリーンのドレスを選ぶ。続いて共布のリボンと、金色の髪飾りを引っ張り出した。リリスが成長してすぐに、過去の衣装と入れ替えたクローゼットから下着も選んだ魔王様が戻ってくる。
「着替えるぞ」
「うん」
もそもそと顔を覗かせ、リビングで待つアスタロトの気配にほっとしながら、シーツを床に落とした。寝着姿はルシファー以外の異性に見せてはいけない。アデーレの教えられたマナーを忠実に守ろうとするリリスが、用意された下着を身につける。
ちなみに着替えの間、ルシファーはハンガー状態で立っているのが日常だ。手伝おうとして「自分でできる」と叱られた経験から、大人しく衣装の準備だけして待つスタイルが定着した。
「髪を編んでくれる?」
「喜んで、お姫様」
いそいそとブラシ片手に近づき、ストレートの黒髪を毛先から丁寧に梳いていく。一通り解いたら、今度は柘植の櫛で梳き直した。艶のある黒髪に接吻け、慣れた手つきで編んでいく。淡緑のリボンを絡め、最後に髪留めで固定した。
今の姿に成長した際、腰の長さだった黒髪が足首近くまで伸びた。リリス本人が切ると言わないので、そのまま大切に手入れをしているルシファーだ。自分の髪も大差ない長さなので、面倒だと思ったこともない。
女性の髪は繊細だからと椿油も絡ませて編んだ黒髪は、一部を肩甲骨当たりの長さに見えるよう散らしてある。ハーフアップに似た横に流した毛先が、白い首筋に映えた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
手を繋いでリビングに戻ると、アデーレによりセットされた朝食が待っていた。すでに食べ終えたアスタロトは、食事を始めるルシファーへ調査報告書を差し出す。
「……食事の後じゃダメか?」
食事中はリリスと見つめ合って過ごしたいと匂わせれば、肩を竦めたアスタロトが書類を引っ込めた。代わりに内容を口頭で告げられる。
「二日酔いの魔族をそれぞれの領地に転移させる許可をください」
「任せる」
「魔王軍の配置移動の申請がでています」
「ベールがいいなら構わない」
次々と話を片づけた。食卓に並んだサラダを口に運び、紅茶でのどを潤す。卵料理が好きなリリスに合わせ、目玉焼きとベーコン、サラダにパンが複数並べられていた。
鶏の卵より明らかに大きいが、竜ほどじゃない目玉焼きを突きながら、リリスが食材を尋ねる。アデーレの説明によれば、イフリートが捕まえた巨大ロック鳥の卵らしい。大皿サイズの目玉焼きは珍しく完熟だった。大きな卵なので火加減を間違えたのかも知れない。白身の縁もすこし焦げていた。
「ルシファー、あーん」
「あーん」
切り分けた卵をベーコンに絡めて差し出され、素直に口を開いて受け取る。にっこり微笑んで美味しいと示せば、リリスは嬉しそうに頷いた。このあたりは幼女の頃と同じで、自分が美味しいと思った物を他人に分けるのが好きなのだ。
紅茶を飲みながら、アスタロトが読み上げる案件に可否を伝えていく。大半は簡単に判断できるが、魔王の承認が必要と言う程度の話で、流していたが……。
「いま、何と言った?」
「ですから、コカトリスを含めた一部の魔物が大量発生しました」
手からカトラリーを落としたルシファーに、アスタロトは無言で肩をすくめた。
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