魔王様、溺愛しすぎです!
580. 隠した秘密の共有
「どうぞ」
アスタロトが扉を開く。彼自身もファイルに挟んだ書類を手にしており、ルシファーは机で署名し終えた書類に押印していた。少し離れた長椅子で本を読むリリスに気づき、ルキフェルは手にした資料を収納へ放り込んだ。
先ほどまでの高揚した気持ちが萎んでいく。魔の森の秘密を解明したような万能感が、すっと消えた。
「報告は良いのですか?」
不思議そうなアスタロトが首をかしげる。
「うん、僕の手柄じゃないから」
ルシファーに報告するつもりだったが、リリスの前で得意げに披露する内容ではない。彼女が説明しないのに、勝手な憶測で語るのは間違っている気がした。日が暮れかけた窓の外に目をやり、ルキフェルは苦笑いを浮かべた。
「ロキちゃん、この本の続きが読みたいの」
リリスは無邪気に声を掛けてくる。覗き込むと、複数巻の小説だった。続きを読みたいと強請るお姫様に記憶を辿り、図書室の左上にあった本を思い出す。なぜか続き物が1巻だけ別にしまわれていたので、記憶に残っている。理由があるのかと放って置いたが、彼女が読みたいというなら取ってくればいい。
「あと1巻なのに足りないんだもん」
書棚になかったとぼやくリリスに微笑み掛け、ルキフェルは「少し待っていて」と声を掛けて部屋を出た。扉の閉まる音に顔を上げたルシファーは、何も報告せずいなくなったルキフェルに首をかしげる。
「なんだったんだ?」
「報告があったようですが、後で構わないと考えたようですね。それよりこちらの書類をお願いします」
新しい書類を前に並べられ、見比べて左側から手を伸ばした。コカトリス捕獲の許可、続いてリリスの衣装代の承認……最後の1枚に署名をしたルシファーから書類を受け取ったリリスが、慣れた手つきで印章を押した。
「終わり? ルシファー」
「ああ。今日の分は終わりだな」
また明日になれば積み重なる書類だが、今日の分は終わった。ほっとしながら立ち上がり、リリスへ手を差し出す。受けたリリスが身を起こしたところで、ルキフェルが戻ってきた。
「これでしょう? はい」
「ありがとう!」
嬉しそうに小説の最終巻を手にしたリリスは、ルキフェルへ礼を言った。その言葉に滲んだ別の意味に気づき、ルキフェルはわずかに目を瞠る。
――黙っていてくれて、ありがとう。
間違わずに受け止めたルキフェルが水色の瞳を細めて頷いた。アイコンタクトでの会話を終えると、リリスはルシファーに向き直る。
「アンナ達も一緒に食事をしたいわ。ロキちゃんやアシュタも」
みんなを誘おうと提案するリリスへ、ルシファーは頷いて許可を出した。もし召喚者達が元いた世界に戻る決意をしていたら、これが最後の食事となる。そんな事情がなくても、リリスのお願いを断る理由はなかった。
「折角だ。ルーサルカ達にも声を掛けてみようか?」
「素敵! ルシファー、ありがとう」
リリスは昔からよくお礼を口にする。謝るより礼を言う回数の方が圧倒的に多かった。笑顔で口にする感謝が、多くの魔族に受け入れられた原因のひとつだ。愛らしく笑顔を振りまき、誰にでも平等に振る舞う。ルシファーを見て学んだのか、素晴らしい姿勢だった。魔王妃に相応しいと民が認めた一因も、ここにある。
「リリスのお礼が聞けるなら、なんでも叶えるよ」
「ルシファーは本当にやりそうだわ」
くすくす笑いながら晩餐へ向かう2人は、その後の騒動を知らず笑い合った。
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