魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

568. 腫れた身体の一部は

 飛び込んだ部屋で、アスタロトが見たのは――リリスをシーツで隠すルシファーだった。死にそうと叫ばれ飛んできたのに、随分と元気そうですね。そんな嫌味を口の中で転がす。


「我が君! 姫!」


 状況を知らず尻尾を振るヤンが駆け寄り、ぽふんとベッドに飛び上がった。シーツの間から顔を覗かせたリリスは、慌てた様子でルシファーを指し示した。


「大変なの! ルシファーが具合悪いみたいで、アスタロト……診てあげて」


 真っ赤な顔で威嚇してくる嫉妬心剥き出しのルシファーをじっくり観察し、アスタロトは首を横に振った。特に問題はなさそうだ、そう告げるとリリスは勢い良く反論した。


「平気なはずないわ! 昨日も今日も身体の一部が腫れてるし、顔も赤いし、言動がちぐはぐで、鼓動だって早いんだから!!」


「……」


 くんくんと匂いを嗅いだヤンが、ぺたりと耳を伏せる。魔獣の鋭い嗅覚は、事件の真相を嗅ぎ当てていた。若いリリスの前で、それを口にするのは憚られる。態度でアスタロトに伝えるヤンは、「くーん」と鼻を鳴らした。察してしまい、額を抑えて唸るアスタロトが説明に困る。


 ルシファーも、やんちゃな魔王様の暴走に困惑していた。自分の身なのに勝手に反応し、なかなか鎮まらない。無理やり襲う気はないのに、汚れた気がして落ち込んだ。


 そんな主君をみながら、アスタロトは眉をひそめる。どう話したら事実を曖昧にぼかしつつ、ルシファーは病気じゃないと理解してもらえるのか。近年稀に見る難問だった。前回の12歳までは何事もなく成長していたため、まだ彼女に性教育は施していなかった。


 ベッドに座り前屈みに見えなくもないルシファーと、膝の上に横抱きにされたリリス。おそらく背中か尻に『腫れた何か』を感じたのかも知れない。いっそ性教育したら、全部解決なのでは? ある意味チャンスなのだ。彼女が興味を持ち、ルシファーも恋心が欲望を得た。


 ――手遅れになる前に、手を打たなくてはなりませんね。結婚前に魔王妃が次代を身籠るスキャンダルは避けなくてはなりません。


 遠い目をしたアスタロトは、溜め息をついた。こういう話は誰が適しているだろう。ベッドでゴメン寝姿勢のヤンは使えない。リリスと知識レベルが同じ側近少女達も、ついでに教育しておいた方がいい。


「リリス嬢、ひとまず落ち着きましょう。病気ではありませんし、きちんと勉強すれば理解できる生理現象のひとつです」


 出来るだけ感情を込めずに話し、教師を誰にするか迷う。


「魔王妃の側近にも、性教育の必要があるので呼びますが……よろしいですね? ルシファー様」


 2人きりの休暇が一時中断するが、このままでは危険なので頷いた。側近少女達を転移させてくれるよう、ルキフェルに伝言する。ベールは動かないし、ルキフェルかベルゼビュートのどちらかが顔を見せるだろう。説明役も押しつけてしまえばいい。


 そう考えたアスタロトの判断は、予想外の方向へ裏切られた。

「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く