魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

567. 朝になっても収まりませんでした

 朝の眩しい日差しに、遠い目をするルシファーは溜め息をついた。寝着の胸元にしがみついた可愛いリリスが、頬をすり寄せてくる。これは幼い頃からの癖で、覚醒する少し前になるとぐずって頬をすり寄せたり、握った寝着を引っ張るのだ。


 普段なら「可愛い」と呟きながら頬ずりして終わる場面だが、昨夜の魔王様暴発未遂事件(非公式)があった翌朝となれば、いろいろと複雑な気持ちが過るのも仕方ない。可愛いのだが、その一言で済ませてやれそうになかった。


「……ん、ルシ……ファ」


 呼ぶ声は懐かしい響きだ。あの頃、12歳まで成長した彼女を性的な対象として認識しなかった。ただ可愛くて、愛しくて、ひたすらに甘やかしたのに。


 何の偶然か、昨夜は反応してしまった。裸だったとはいえ、鎮める前に気づかれたのは失策だった。


 まずいぞ、またあの状態になったら……こうやって並んで眠り、挨拶代わりに接吻け、膝に乗せて座ることが出来なくなる。黒髪を撫でたり、一緒に入浴するたびにが起きてしまったら……。


 唸りたい気分で困惑の眼差しをリリスの旋毛に向ける。ここにキスを落としたいが、もし反応したらと思うと怖い。触れる方法が断たれたら、水を忘れた花のように枯れるだろう。対策がわからず、うっかり抱き締めたリリスの背から両手が動かせなかった。


 やや膨らんだ胸を押し付けてぴたりと全身を添わせたリリスは、お嫁さんとなるのだから手を出してもいいんじゃないか? いや12歳の身体は未成熟だからダメだろう。


 怖がらせて「二度と顔も見たくない」と言われたら、魔族巻き込んで自滅してやる。迷惑な覚悟を決めながら、ルシファーは朝のすがすがしい空気に似合わぬ溜め息を吐いた。


「……アスタロトに相談するか」


 18人も嫁を貰ったんだ。的確なアドバイスがもらえるかも知れない。リリスと似たような思考で側近に頼る魔王は、そう決まると気が楽になってリリスの黒髪に手を伸ばした。背中に沿わせていた手で、黒髪を数回撫でてみる。


 意外と平気そうだ。


「お、はよ……ルシファー、早いのね」


「ああ、おはよう」


 黒髪を撫でても大丈夫だったことで、少しだけ余裕が出来る。なんだ、思ってたより平気じゃないか。オレの自制心も大したもの……そこで身を起こしたリリスの白い首に目が釘付けになる。視線をそらそうと下を向いたら、今度は柔らかそうな胸元が飛び込んだ。


 やばい。なぜ自分の身体の一部なのに暴走する? 焦って、深呼吸を繰り返し宥めた。3回目くらいで鼓動が落ち着いてくる。


「具合悪いの? アシュタ呼ぶ?」


 具合は悪くないので首を横に振った直後、アスタロトを呼んで欲しいので頷く。振り回した頭がくらくらするが、心配そうなリリスが寝起きで温かい手を頬に当てた。


「待っててね。すぐ呼ぶね――アシュタ!! ルシファーが死んじゃう!!」


 いきなり叫んだリリスだが、その声は魔力を乗せて遠くまで運ばれた。指定されたアスタロトは朝食中だったが、突然頭を割るような大音響で叫ばれてカトラリーを取り落とす。


「……っ、加減を……知らない人ですね」


 非常識だと文句を言いながら、今送り込まれた声の内容を反芻して……慌てて立ち上がった。魔王が死に直面したという恐ろしい内容に、部屋の外へ飛び降りる。執務室の隣にある私室は2階だが、何ら問題ない。着地して早足で中庭に向かいながら、ベールへ本日の予定変更を連絡した。


 到着した中庭で、ヤンが日向ぼっこをしている。


「ヤン、陛下の元へ行きますがついて来ますか?」


「お供しますぞ!」


 大喜びで起き上がった小山サイズのフェンリルは、あっという間に小型化した。魔法陣に駆け寄った小型犬サイズの狼は、アスタロトの足元でお座りする。ルシファーの魔力を目印に、アスタロトは転移した。行き先が、蜜月状態の2人の寝室だと知らぬまま――。

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