魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

565. リリス姫、お前もか!

「陛下、リリス姫は『魔王妃』です。公的に未婚女性なのですから、寝室にのはお止めください」


 顔を出すなり説教を始めたベールへ、首をかしげたルシファーがもっともな反論をした。


「そうは言うが、元々オレの寝室でリリスは寝ていた。だ」


「……同じなのが問題だったのよ」


 呆れ顔でベルゼビュートが指摘した。確かにと同意するルキフェルが頷く。四面楚歌しめんそかの状況で、当事者のリリスはルシファーに横抱きされたまま首をかしげた。


「何が問題なの?」


 その瞬間、4人は心の中でハモった――『リリス姫、お前もか!』


 問題点を理解しない当事者2人が顔を見合わせ、にこにこと笑顔をかわしている。事態を全く飲み込めていない様子だが、もしかしたら単に目に映る場所に伴侶がいる幸せでいっぱいなのか。後者の可能性が非常に高い2人の蜜月ぶりに、アスタロトは対策を練り始めた。


 このまま外へ出せば騒動が大きくなり、噂を助長する。魔王と魔王妃の仲睦まじい話はともかく、12歳の少女をあれこれしたと噂されるのは問題があるだろう。


 魔族の性的な秩序の乱れや治安悪化を招きかねない。捕まえた犯罪者に「だって陛下もしてるじゃないか」と言われたら、捕まえる魔王軍の兵士が精神的ダメージに泣き出しそうだ。視線を向ければ、ベールもルキフェルも真剣に考え込んでいた。


 リリスに似合うリボンを選ぶルシファーに巻き込まれたベルゼビュートは、数本のリボンを交互にリリスに当てて唸っている。かなり真剣だった。


「こちら、ですわね。絡めて編んだら素敵です」


「ルシファー、これがいい」


 手際よく黒髪に薄ピンクのリボンを絡めて編み込んでいく。数本の三つ編みを作ってさらにリボンでまとめた髪形に、ルシファーが「女性は器用だ」と感心しきりだった。


 ベルゼビュートが勧めるリボンを纏うリリスに、蕩ける笑みを向けるルシファーは己の顔の良さを失念していた。お茶の用意に入った侍女が顔を真っ赤にして逃げ出す。すぐにアデーレが担当になったので問題は沈静化したが、しばらくは別の侍女の出入りも制限しなくてはならない。


 頭の痛い案件が積み重なるが、『狂化した魔王陛下の封印未遂事件』に比べたらマシだった。そう自分を慰めながら、アスタロトが提案する。


「陛下はしばらく、リリス姫はその介護……失礼、していることにしましょう」


 意図せず間違えた言葉に、ルキフェルが吹き出す。怒り出すかと思ったが、療養と看病に対するイメージが悪くないのか。ルシファーは嬉しそうに目を輝かせた。


「そうか! ならば温泉のある私邸にいく」


 つい先日の混浴パーティーで有名になったが、あの屋敷は本来ルシファーの所有物だ。療養目的で献上された屋敷なので、今回の目的とも合致する。だが、アスタロトは渋い顔で考え込んだ。


 これから即位記念祭の準備がある。魔王の署名は必要だが、書類をドラゴン便で転送してのやり取りは可能だった。問題はこの忙しい時期に、ルシファーを野放しにして大丈夫か……という一点だ。目を離すとすぐに問題を起こし、騒動を大きくし、噂を広げまくる。厄介な主君なので、許可を出す際は慎重だった。


「屋敷から出なければ、なんとかなる……でしょうか」


 大公はそれぞれに仕事がある上、今回の即位記念祭に割く人手が足りない。この状態で大公が監視につくのは不可能だった。


「陛下、くれぐれも、くれぐれも大人しく。よろしいですね?」


 黒い笑顔で「騒動を起こしたらただじゃ済まさない」と脅しをかけるアスタロトに、満面の笑みでルシファーは応じた。


「リリスが隣にいるなら、屋敷から出ないと宣誓してもいいぞ」


 その言葉を信じた自分を、アスタロトが呪うのは10日後の出来事だった。

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