魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

526. これは魔王の仕事なのか?

 リボンが結ばれた髪を魔力で操る幼女の器用さに、大爆笑したアスタロトが表情を取り繕う。しかし口の端がぴくりと動くのは、リリスがまだ髪を使って遊んでいるせいだった。


「女性の紹介は、魔王の業務じゃないんだが」


「今後は簡単に「何でもいい」と言わないことです」


 間違いなく自分の失言が原因なので、渋い顔で唸るルシファーも反論出来ない。


「アムドゥスキアスが妻……番でなくてもいいのか」


 確認するように呟くルシファーに、アスタロトも複雑そうに頷いた。


「私も確認したのですが、どうしてもが欲しいようですね」


「うん? もう相手が決まっているなら、直接交渉すればいいだろう」


 彼女が欲しいと示すなら、妻にしたい女性がいるという意味だ。ルキフェルや神龍を含めたドラゴン種は、番は生涯に1人と決まっている。しかしベールのような幻獣やアラエルたち神獣は、番を喪うと新しい番を見つける可能性もあった。獣人系は逆に多くの番候補がおり、その中から好みの相手を選ぶ。


 人族や魔族の大多数は番という考え方がなかった。ルシファーもそうだが、番だから結ばれるのではない。ただ好きになった相手を妻として迎えるのだ。そのため『運命の人』という表現を使ったりする者もいた。番を求めるのは限られた種族の習性だ。


「……それが、交渉相手が成人前でして」


 妙に歯切れが悪い。アスタロトはどう説明したらいいか迷いながら、言葉を選んで……最終的に諦めて現実をそのまま突きつけた。


「陛下の許可が必要です」


「リリスはやらんぞ」


 きっぱり切って捨てる魔王の剣呑な眼差しに、苦笑いしたアスタロトが首を横に振る。名を呼ばれたと思ったのか、背中からリリスが顔を見せた。


「いえ、欲しい相手はレライエ嬢だそうです」


「……オレの許可より先に、親の許可がいるだろう。彼女はルキフェルの親戚だったはず」


 自分の許可は必要ないと言いかけて、側近が差し出した書類に固まった。10年ほど前、リリスの側近を決めた際に彼女らの親と交わした契約書だ。成人するまで責任をもって預かる旨と、相応しい婚姻相手を探す努力義務、成人後の就職を保証する内容だった。


 しっかりとルシファーの署名と押印が残っている。この契約書類から判断すると、結婚前のお付き合い段階で魔王の許可が必要だった。


 これは魔王の仕事か? 首をかしげると、後ろで反対側にぴょこっとリリスがはみ出す。可愛いので、後ろの幼女を撫でるルシファーは現実逃避していた。


「陛下、しっかりしてください。結婚は別として、まずお付き合いからです。レライエ嬢の気持ちを確認し、アムドゥスキアスに襲わないよう契約させて、お付き合いの有無を決めるのは陛下の仕事です」


「わかった。じゃあ、まずレライエ嬢の気持ちを確かめよう」


「ライは何されるの?」


 無邪気に尋ねるリリスの純粋な幼子の眼差しが眩しい。自分達がひどく穢れた存在のような気がして、視線をそらしてしまった。ルシファーの髪や肩を掴んで、背中から這い出たリリスが椅子の上に立ち上がる。


「パパ、抱っこ」


「はい」


 即答で膝の上に移動させ、向かい合って抱っこ状態になった。以前は後ろから抱っこすることが多かったが、蘇ってからのリリスは抱き合う形が好きなのだ。背中をぽんぽんと叩きながらあやし始めるルシファーの手つきは慣れていた。


「ライに何するの?」


「……何もしないぞ。ちょっと話をするだけだ」


「ひどいこと?」


「酷くない、と思う」


 歯切れが悪いのは、彼女が翡翠竜をどう捉えているか判断できないため。もしかしたら全く興味がないかも知れないし、逆に可愛いペット感覚の可能性もある。過去に魔王城を破壊した話を知らなければ、見た目がいい無害な小型竜にしか見えないのだから。


「どうして目をみないの? リリス、悪いこと聞いた?」


「そんなことないぞ。リリスは間違ってない。全然平気だ。愛してるぞ」


 慌てて視線を合わせて頬をすり寄せ、鼻の頭や額にキスを降らせた。明らかに機嫌を取り始めた魔王の姿に、リリスはぷっと頬を膨らませる。


「パパ、なにか変」


「普段通りだ、何も問題ない。レライエ嬢に会いに行こう。ほら、新しいサンダルだぞ」


 ぽんと収納から取り出した鮮やかな青のサンダルに、リリスの意識は話からサンダルへ向かった。幼子ゆえの単純さにほっとしながら、彼女に履かせてやる。嬉しそうに足をぶんぶん前後に揺する彼女を床に下し、手を繋いで部屋を出ようとした。


 その背中に怖ろしい追及が向けられる。


「陛下、戻られましたら……その『新しいサンダル』の出所について、話をお伺いします。よろしいですね?」


 疑問形を取っているが断る余地を残さぬ響きに、ルシファーは聞こえなかったフリで逃げ出した。

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