魔王様、溺愛しすぎです!
522. すっぽん鍋という美容法
何にしろ魔族の子は人族より頑強なことが多く、致命傷でなければ治癒魔法もある。過大な心配は必要ないので、事故がないよう見守る形だった。別の意味で魔王の焼きもちが発動したら危険なので、ルシファーの反応次第で引き剥がすよう、少女達に大公閣下から命令が下っている。
「なあ……距離が近くないか?」
「そうでしょうか」
笑顔で誤魔化すルーサルカが間に入るが、ルシファーはリリスが心配で仕方ない。ケガをする心配はないが、仮にも異性と手を繋ぐのはどうだろう。子供だからと許されるのか? いや、彼らはまだ正式に魔族として認めてないから、罰則が適用にならない……ん? そういう問題じゃないだろう。
オレが妻の心配をして何が悪い!
暴走しかけたルシファーに気づいたアスタロトが、さらりとリリスを回収して運んできた。珍しくアスタロトに抱っこされた幼女は、嬉しそうにアスタロトの金髪を引っ張る。以前からきらきらした物が好きなリリスなので、溜め息をついて髪を数本渡したアスタロトだった。
下手に泣かせたら、ルシファーに目の敵にされそうだ。
「おいで、リリス」
抱き締めて頬ずりする。やっと戻ってきたリリスと手を繋いだルシファーは、満面の笑みで幼女の頬にキスを降らせた。
「パパ、擽ったい」
リリスが笑いながらルシファーの髪を引っ張る。この癖だけはどうしても直らないが、理由ははっきりしていた。ルシファーが叱らないからだ。
酒を飲まされたアベルがふら付きながら近づき、持ってきた深皿をイザヤに渡した。
「もうダメだ、食べられない~」
どちらかと言えば、もう飲めないの間違いだろう。真っ赤な顔でげらげら笑いながら、すっぽん鍋をよそった深皿の中身を覗いたアンナが「これ、すっぽんかしら?」と首をかしげた。
「おそらく、すっぽんだと思います」
アスタロトが肯定したことで、アンナの目の色が変わる。
「これ、高級食材ですよ! お肌がぷるんぷるんになるやつです!!」
興奮した口調でまくしたてたアンナの声は大きく、少女達にも届いた。ぐるんと音が聞こえそうな勢いで、周囲の女性達が振り向く。その目は、アンナの手元のすっぽん鍋の入った深皿に釘付けだった。
「あの、アンナ嬢……すっぽんは、お肌にいいのですか?」
ルーシアが声をかけると、アンナは素直に頷いた。
「私の世界ではコラーゲンがあって、肌に艶やハリが戻ると有名な食材ですよ」
次の瞬間、女性達が凄い勢いで鍋に群がった。近くでくだを巻いていたドワーフ達が押しのけられ、隅に追いやられていく。駆け込んだ女性達は数千人分のすっぽん鍋の汁や具を掻き込んだ。その姿に普段の優雅さや美しさはない。
我先にと鍋の中身を口に流し込む。いくら美容によい食べ物でも、そんなにたくさん食べて害はないのだろうか。心配になる反面、彼女らの勢いに押されて何も言えなかった。
「怖いな」
「皆さん必死ですね」
なぜか若い少女達も含まれている。女性の美への執着に恐怖心を覚える男性陣は遠巻きに、鍋を貪る女性達を見守った。こっそり女性達の輪に加わるイポスや女性騎士もいる。
「ところで、アンナ嬢と彼らの会話に使う言語は珍しいものか?」
リリスが鍋の縁に口をつけて直接スープを飲もうとするのを止めて、大きなスプーンを渡す。木製のスプーンを使って、リリスはスープを口に流した。啜って飲まず、上を向いて流し込んだので咽て咳き込む。最近行儀が悪いが、誰か悪い見本でもいるのだろうか。
咽せたリリスの背を叩きながら、見つけ次第犯人を殴ることに決めたルシファーは眉をひそめた。
豪快なリリスの食べ方に茫然としながら、アンナはなんとか会話の内容に返事をする。
「学校で習った英語が通じました。私は全教科の中で英語が一番得意でしたから、何とか日常会話は出来ます」
「ほう、優秀な学校だ」
「この世界より進んでいます」
一度も聞いたことがない言語を教えられていたと知り、驚きに目を瞠った。異世界の学校のレベルが高いのか、真剣に考え込んでしまう。執政者として民の学力向上は重要な課題なのだ。
「魔王様が真剣に捉えているところ申し訳ないが、世界の共通語として制定された言語がたまたま通じただけだと思う」
口下手なイザヤが必死で説明を終えるまでに、アスタロトとルシファーの間で教育に関する熱い談議が行われ、周囲の貴族や軍人を巻き込んで新しい学校設立に向けた話が進んでいた。
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