魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

513. 災難続きの城門前は大炎上

 城門前は火の海だった。


「……何が起きたと思う?」


 ルシファーは消えかけた転移魔法陣を上書きして、結界に変更する。常時結界に守られる自分自身はともかく、後ろの少女達は普段から結界を張るほど余力がないだろう。腕の中のリリスは触れている限り、魔王の結界の適用範囲内だ。アスタロトは……結界がなくても死にはしない。


 信頼とも投げやりとも取れる考えが過るが、目の前の光景に現実逃避している場合ではなかった。


「この火は消しても構わないか」


「どうでしょう?」


 城まで延焼しそうな大炎上状態だが、結界越しなので熱くはない。浄化など別目的があって燃やした火であれば、勝手に消さない方がよいはずだった。


「パパ、これ……燃えちゃうよ」


「あ? ああ、何の心配をしている?」


 リリスの突然の発言に、ルシファーは腕の中で大人しくしている幼女に問う。銀龍石を使った城が燃える心配はいらない。じっと炎を見つめるリリスが指さしたのは、城門より左側の魔の森だった。


「あっち」


「え? アスタロト、この場を任せる」


「はい」


 頷いたアスタロトが結界を維持するのを確かめ、ふわりと浮き上がった。4枚の翼を出しっぱなしだったので、そのまま左側の森へ向かう。以前にリリスが死にかけた森は、魔王軍や大公達の尽力により立ち枯れから蘇っていた。しかし嫌な思い出と直結するため、足を踏み入れていない。


 近づくと、草原を燃やす火が風に煽られたらしく、飛び火していた。派手に燃え上がる炎を放置すれば、アラクネの領地にまで火が届く。女郎蜘蛛達は木々の間に住まい、炎を苦手とする。このままでは民に危険が及ぶと判断し、消火を試みた。


「リリス、雨を降らせるぞ」


「どーんは?」


「それなら、リリスにもお手伝いを頼もうか」


 雷を落とす魔力を変換して、リリスにも可能な手伝いを提案する。目を輝かせて『お手伝い』に喜ぶ幼女は、両手をじたばた動かして興奮ぎみだ。


「この魔法陣を空に浮かべるから、上手に雷を落とせるか?」


「うん」


 局地的な雨を降らせる水属性の魔法陣に、雷を動力とする魔法文字を組み合わせる。これで魔法陣に雷が落ちれば雨が降る仕掛けを作り上げた。暴風雨にする必要はないので、しとしとと1時間ほど大地を濡らして止むよう組む。


「魔王陛下!」


 逃げようとしていたアラクネ達が森から飛び出し、こちらに気づいて上空を指さしている。彼女らを安心させるためにも、早く魔法陣を発動させたい。拡大した魔法陣を空に展開し、最後の止めをリリスに任せた。


「よし、いいぞ。上に雷をくれ」


「あ~い」


 リリスがぺたんこの胸をそらせ、勢いよく手を振り下ろす。


「どぉ~ん!」


 耳をつんざく音がして、真っすぐに魔法陣の中央付近に雷が落ちた。直後に魔法陣が回転しながら5つに増える。それぞれが雨を降らせ始め、急ごしらえの魔法陣が無事発動した。落雷の影響で巻き起こった風が、2人の髪を乱す。


「……天候関係は久しぶりだが、うまくいった。偉いぞ、リリス。おかげでアラクネ達が家を焼かれずに済む。よく気付いたな、いい子だ」


 彼女が気づかなければ、魔の森に延焼した火事で住処を追われる種族が出るところだった。しっとり降り注ぐ雨は、徐々に火を消し煙を生み熱を奪っていく。絡まった黒髪を手櫛で丁寧に梳きながら、ご機嫌なリリスの頬にキスをした。


「せっかくだ、彼女達に挨拶してくるか」


「うん、お洋服のお礼も言うの」


 ピンクのドレスを発注したのは側近少女達だが、蚕の糸を紡いで手をかけてくれたのはアラクネだった。商売だから当然という考え方も出来るが、製造にかかわる人たちにお礼を言うのは良いことだ。微笑んで大地に降り立つと、巨大な蜘蛛達に囲まれた。


 足をすべて地面に下した状態であっても、大人の身長ほどある。近づいてすぐに姿勢を低くした彼女達は、口々にお礼を言った。移動できない蚕を置いて逃げ出したが、これで蚕はもちろん住処である森や同族の安全も確保できたのだ。


「このドレス、ありがとうなの。可愛いし、すっごく気に入ってる!」


 嬉しそうにお礼を言うリリスに、仕事だからと恐縮する彼女達は少し照れている様子だった。もじもじと前の足を絡ませている。


「丁寧な作りだし、きっと時間もかかっただろう。オレからも礼を言う」


 恐縮しきりの女郎蜘蛛に囲まれ、穏やかな雰囲気が広がる。このまま現実逃避していたいが、そうもいかないだろう。燃えているのは己の居城の入り口なのだから。


「しかたない、戻るか」


 嫌そうに呟いたルシファーが城門へ視線を向けると、舞い上がった鳳凰が新しい炎を吐くところだった。

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