魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

499. 遠吠えは危険の合図

 パリパリ……緊張する空気を切り裂いて、雷が地上に降り注いだ。


「どーん!」


 天を差した指を勢いよく振り下ろす幼女は、ご機嫌で歓声を上げた。直撃したコカトリスは、紫の毒を吐きながら落ちる。周囲を飛んでいた群れの数匹も影響を受けたらしく、地上でじたばた暴れていた。直撃しなければ痺れる程度で、しばらくすれば回復する。


「リリス。狩りはちゃんと止めを刺しなさい。彼らの命を戴くんだから、苦しめちゃいけない」


 復讐や殺戮と違い、狩りは結果を得るための行為だ。生きていくために必要な食料を得るだけなら、相手を苦しめる必要はなかった。面白半分にケガを負わせて追い回す狩りは、外道げどうおこないとさげすまれる。人族の貴族は趣味で狩りをするが、魔族は毛皮や肉を必要としない狩りを禁じていた。


 魔物を狩るのも、魔族を襲撃する害獣駆除のためだ。それ以外にも魔の森から発生する瘴気を浄化したり研究目的もあるが、きちんと計画を立てて数を管理していた。


 狩られた魔物の中で食料となる種類は、街で登録した正規業者を通じて売買される。長い間に構築されたシステムにより、狩りは遊びではなくルールのある仕事と認識されてきたのだ。今回リリスが駆除した数も、申請して調整する予定だった。


「わかった! どーん」


 本当にわかったのか? そう尋ねたくなる容赦のなさで、雷が地上のコカトリスを貫いた。だがきちんと止めを差したので、もう暴れるコカトリスはいない。紫色の毒が漂う中、ベルゼビュートが数を数えてメモする。


「陛下、転送するならこのメモを付けておいてくださいね」


「ん? ならば乗せておけ」


 コカトリスを一か所に集めるヤンが戻ってくると、彼の毛皮に毒が付着している。後ろで手を叩く少女達も結界に包んであるが、安全のためにヤンを浄化した。


 きらっと光った魔法陣が消えると、ヤンが艶々した毛皮で吠える。浄化したときに汚れも落ちたらしい。機嫌よく吠える声に、リリスが目を輝かせた。


「リリスも! あお~ん」


 両手でホーンを作って叫んだリリスの愛らしい仕草に、ルシファーが顔色を変えた。


「ちょっ! 待て、リリスっ!!」


 しかし制止は遅かった。彼女の遠吠えは豊かな魔力を乗せて空に放たれ、頭上を横切っていた小ぶりなドラゴンの腹を直撃する。さすがに魔王クラスの魔力弾を腹に叩きつけられれば、ドラゴンだとて痛い。無防備な飛行中に攻撃されたドラゴンが、錐もみ状になって落ちてきた。


「なぁに?」


 幼女は頭上のドラゴンに気づいておらず、不思議そうに首をかしげる。美しい翡翠色のドラゴンは意識を失っているらしい。羽を広げて風を受ける様子はなかった。


「陛下、あれ……」


「まずいですぞ、我が君」


「……わかってる!」


 大急ぎで魔力を編んで網を作り出す。落下する大質量を受けるための魔法陣を頭上に描き、真上に落ちてくるドラゴンを魔力の網で絡めて受け止めた。見た目より重量はなく、網は柔らかくドラゴンを包む。頭上でたわんだ網の間から、尻尾が零れた。


 大きな傷はなさそうだが、腹部が少し赤い。鱗があるので切れたり裂けなかったのが不幸中の幸いだった。治癒魔法陣を頭上へかざし、ルシファーは翼を2枚広げる。さすがに魔力を使いすぎたらしく、少し疲れを感じた。


「……最悪の事態はまぬかれたか」


 ドラゴンの傷が治癒したのを確認して、網の下から全員抜け出す。魔力の網を緩めてドラゴンを地上に下して近づいた。まだ意識は回復しないが、苦しそうな様子はない。


「リリスがやったの?」


「そうだ。上空を確認しないで魔力を放っただろう。次はきちんと確認しなさい」


 きっちり言い聞かせておかないと、また同じ事件を起こすだろう。そう考えたルシファーが諭すと、リリスは「うん、ごめんなさい」と謝った。素直で大変結構と頭を撫でたルシファーの後ろから、ドラゴンより大きな狼が呆れたと口を挟む。


「我が君、そこは次はやらないよう指導するべきではありませぬか?」


「でもリリスちゃんですもの。またやるわ」


 ベルゼビュートの指摘に、後ろの少女達はそっと目を伏せた。反論できないのだ。確かにまたやるだろうな……この場の全員が肩を落とした。

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