魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

485. 謝罪は本音で真摯に伝える

 怯える勇者を放置して、ルシファーが立ち上がった。扉を開くと、ベッドではなく床の上でリリスが目元を擦る。精神侵略が解けて目が覚めたので、自分でベッドから下りようとしたらしい。シーツごと滑り落ちた幼女は、床の上にぺたりと足を投げ出して座っていた。


 目元が少し赤い。


「落ちたのか? 痛いところはあるか、リリス」


 抱き上げようと伸ばした手に、リリスは素直にしがみ付いた。先ほどの癇癪かんしゃくが嘘のように、大人しくルシファーの髪を握る。


「ここ、痛い」


 お尻を撫でて呟くので、治癒魔法陣を2つほど使用する。念には念を入れた過保護な対応に、アスタロトが「尻もち程度で甘いんですから」とぼやく。寝起きのむずがる仕草に似たリリスの甘えに、ルシファーの顔が和らいだ。


「もう平気だろう。おいで」


 抱っこしたまま歩いていくと、再びソファに腰掛けた。膝の上で座らせようとするが、向かい合わせに抱き着いて離れない。長いローブで彼女の足を隠しながら、左側で頭を抱えて震えるアベルに目を向けた。もしかして処断されるとでも思ったんだろうか。


「アベル、話を中断して悪かった。続けてくれ」


 穏やかに語り掛けると、そっと顔を上げたアベルがソファに戻る。


「お兄ちゃんも落ちたの?」


「リリスとお揃いだな」


 黒髪を撫でて囁くと、頷いたリリスがアベルの方を向いた。その赤い瞳に恨みや恐怖などの暗い感情は一切なく、真っすぐにアベルの瞳を覗きこむ。


 外国人だった祖父の隔世遺伝で青い目をしたアベルは、居心地が悪くて目を逸らした。日本人は黒や濃茶の瞳なので、青いだけで異端の目で見られる。正面から目を見て話をするのは祖母だけだったため、なんだか恥ずかしくなってしまう。


「お兄ちゃんのお目目は、シアやベルちゃんと同じね」


 謝ろうと口を開きかけたタイミングでの言葉に、ぽろりと涙がこぼれた。この世界では異端色じゃないと理解しても、こうやって肯定されると嬉しい。


「こないだは、ごめんなさい。手を払ったし、花も踏んで……本当にごめんなさい」


 本心から謝れた。こんな真っすぐな子を、どうして暗い感情で傷つけたのか。泣き出しそうだったあの瞬間が、棘となって胸に痛みをもたらす。本当に悪いことをしたと心の底から思った。どれだけ反省しても足りないだろうけど、気持ちを言葉にするのは勇気がいるけど、逃げる気はない。


 きっちり頭を下げたアベルに、幼女は「いいよ」と軽く許しを与えた。びっくりして顔を上げれば、彼女は大きな瞳を瞬きして笑う。小さな手を振ってくれるので、反射的に手を振り返した。すぐに我に返って、両手を膝の上に揃える。


「魔王様にもご迷惑かけて、すみません。僕がお姫様を怖がらせて、酷いことをしました……会議にも口出ししてすみませんでした。不安で、いない間に処刑が決まるかもと思ったんです。欠席した会議で役目を押し付けられたことがあって、恐かったから……疑ってしまいました」


「仕方あるまい。世界も常識さえも違うのだ。多少のトラブルは想定している。ただ、この子を泣かすことは二度としてくれるな」


 誰でも失敗はある。魔族同士でも習性や考え方の違いで、似たような騒動は起きていた。それは仕方のないことだが、二度目は故意の行為と見做みなされる。謝罪で許してやれるのは、実害がない初回のトラブルだけなのだから。


「はい」


 しっかりと頷いたアベルへアスタロトが何か言いかけた時、部屋の扉をノックする音が響いた。


「ロキちゃんだ」


 魔力の色で判断したリリスのはしゃいだ声に、ルシファーが苦笑して「入れ」と許可を出す。他の魔族は魔力の微妙な違いで相手を見分けるが、色で視るリリスの判断は的確で早い。開いた扉の向こうから、興奮した様子のルキフェルが顔を覗かせた。


「大発見だよ! ……あれ? 勇者もいるんだ」


 声のトーンが少し下がる。彼はまだアベルに対して思うところがあるのだろう。表に出すあたりは子供だが、とがめても感情がこじれるだけだ。


「大発見の報告か?」


「うん。あの異世界への魔法陣は――」


 語られた驚きの内容に、誰もが言葉を失くした。

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