魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

462. 立派などっかん!

「パパ、どっかんは?」


「あの塔はどうだ」


 城の中央に立つひと際高い塔の青い屋根を指さす。魔法陣に埋め尽くされたミヒャール国の首都は、まるで光を弾く水面のように輝いていた。


 赤い瞳を見開いてリリスは美しい光景に見入る。地上から数メートルの高さに浮かんだ魔法陣の下は見えない。そのためリリスが見ているのは、湖に沈んだ古代遺跡のようだった。幻想的な風景に目を瞬く。


 ルシファーが指さした塔は美しい姿を保っていた。壊すのがもったいない反面、他人が壊すなら自分の手で……と思う。


「あそこ?」


「ああ」


 怒りや暗い感情にささくれた心を、リリスの一言が癒す。その声が、姿が、仕草がただ愛おしかった。狂うほど長い時間を生きて、ようやく手に入れた宝物だ。彼女が笑ってくれるなら、何でも差し出せるだろう。


 同意して答えを待つ。約束した以上、彼女が拒否しない限り叶えてやりたい。子供特有の温かい体温の指が、きゅっとルシファーの手を握った。 


「悪い人のおうち?」


「そうだよ」


 肯定されたリリスは「えいっ! どーん」と叫んで右手を振り回した。雲ひとつない晴天の空から、激しい雷光が塔を貫く。見事に直撃した雷が下まで届くと反動で周囲の塔もいくつか崩れた。


「お見事です、リリス嬢」


「さすがですわね」


 褒められたリリスが嬉しくて頬を緩める。ご機嫌でルシファーの髪を掴んで引っ張った。一番欲しい言葉をまだもらっていない。


「立派だぞ、見事だった。リリスはオレのお嫁さんだからね」


 白い歯を見せて笑う幼女の頬に、額にキスが降り注ぐ。擽ったさに首を竦めたリリスだが、魔力の高まりに慌ててルシファーを見上げた。


「次はオレの番か」


 黒い翼を羽ばたかせ、大きく広げる。回転する魔法陣の文字が止まり、輝きを増した。


 ドンッ!! 激しい音と振動があり、ぶわっと空気が膨張する姿が見える。音速を超えた衝撃波は、結界に触れた途端に解けて光の粒になって消えた。花火が散るような光景に、リリスは手を叩いた。


「すご~い! きれぇ!!」


 建物の煉瓦や石畳は粉々にくだけ、巨大なくぼ地となった首都の跡地に人の営みの形跡は見られない。魔法陣が覆った場所をすべて塵と化した魔法に、さすがのアスタロト達も絶句した。魔力が半分以下に制限された状態で、これだけの魔法が使えるのだ。


 かつての自分が戦った頃より、明らかに魔力量も魔法の練度も高まっていた。あの頃なら善戦できたが、今なら瞬殺されるだろう。不思議と悔しさはなく、我が主ならば当然という認識がアスタロトの胸を占めた。


「ミヒャール国も同じように……おや?」


 同じ魔法を使うのかと尋ねかけたアスタロトは、ガブリエラ国の跡地に目を凝らした。じわじわと中央付近から水が湧き出ている。深く抉った地中の水脈を掘り当てたらしい。すり鉢の底から湧き出る水は透き通っていたが、周囲の土を巻き込んで徐々に濁り始めた。


 空中から見ると、ずいぶん水の勢いがある。あっという間に水が満ちた。


「パパ、おっきい水たまり!」


「そうだな。湖くらいになりそうだ」


「お魚さんいるかな~」


 覗き込む幼女が落ちないように抱き締めながら、ルシファーは一緒に覗き込んだ。


「まだいないが、少ししたら増えると思うぞ」


 地下水が湧き出たばかりでは魚もいない。しかし土砂が沈んで透き通り、水草が生えて生態系が構築されれば、緑豊かな湖畔の風景が見られる。納得したらしいリリスが「お魚できたら、また来ようね」と約束を取り付ける。そんな親子の微笑ましいやり取りの後ろで、ベルゼビュートが首をかしげた。


「魚はどうやって出来るの?」


 無知を晒す同僚を見やるアスタロトの目は、どこまでも冷たかった。

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