魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

453. ご褒美をあげましゅ

「この子、痛そう」


 言われても見た目にケガはなさそうだ。しかし周囲の魔獣達が息を飲んだ。何か知っているらしい。血の臭いに敏感な魔獣は、どの個体がケガをしているか把握しており、幼女の発言に困惑した様子だった。


 小さな手を伸ばして触る手前で、リリスは一度止まる。こてりと首をかしげ、伏せた魔狼に声をかける。いきなり触ってはいけない教えを思い出したのだろう。


「触っていい?」


 くーんと鼻を鳴らした魔狼の許可で、リリスはそっと首の後ろに触れた。耳で隠れていた場所に指を伸ばすと、魔狼がびくりと身を揺らす。


「ケガか」


 耳をぺたんと下げて恐縮しきりの魔狼に、治癒魔法を施す。魔法陣を使うまでもない簡単な治療だ。ふわりと温かな風が起きて、すぐに光は消えた。びっくりした様子の魔狼の傷を探すようにリリスが両手で首を撫でて、「ふわふわぁ」と笑う。


 傷を負ったことで黒を帯びていた首は、元通りの淡い青に染まっていた。傷が治った証拠だとリリスは機嫌よく手を引いた。


「ありがとでした」


 触らせてもらったお礼を言うリリスに、周囲の魔狼達も一斉に伏せて礼を示す。彼らのほとんどは言葉を発しないが、意思の疎通は出来る魔族だ。しかもフェンリルであるセーレやヤンにとって配下にあたり、普段から灰色魔狼に慣れたリリスには家族と同じ認識だった。


「よく気付いたな、えらいぞリリス」


 黒髪にキスを落として、抱き上げる。するとリリスが再び指をさして強請った。


「パパ、あっちとこっちも」


 魔獣達の中にケガをした者が複数紛れているらしい。彼らは魔力を持つが魔法は使えない。そのためケガをしても、体内の魔力を活用した自然治癒に任せてきた。魔獣達にとってケガは日常茶飯事で、騒ぎ立てるものではない。しかしリリスにとって、赤い血が出るケガは痛い物で黒くて怖い物だった。


「全員治してやる。リリスも少しだけ手伝えるか?」


「うん」


 嬉しそうに頷いたリリスが「どうするの?」と尋ねると、耳元で何かを囁いた。ルシファーの純白の髪がさらりと流れて、彼らのひそひそ話を隠してしまう。納得したらしいリリスがルシファーの首に手を回して、頬にふにゅとピンクの唇を押し当てた。


 ご機嫌最高潮のルシファーが、右手に呼びだした魔法陣を大広間の天井に展開する。ぱちんと指を鳴らした合図で発動し、花火のように魔獣達の上に降り注いだ。ケガをした者はもちろん、疲れや怠さもすべて消し去る。


「これでよし!」


「ご褒美をあげましゅ」


 うまくできたらご褒美をもらって育ったリリスは、得意げに薄い胸を反らせた。語尾を噛んだことはスルーしたが、ルシファーの笑みが深くなった理由は推して知るべし。口の端から「可愛い」「天使過ぎる」と感情が駄々洩れだった。


「陛下、よろしいでしょうか」


 アスタロトの声に振り返ると、聖女が崩れるように座り込んでいた。妹を守ろうとする兄がその背を支えながら、黒髪を何度も撫でている。


「ああ、悪い。待たせた」


 ちらりとルキフェルに目を合わせる。心得たように彼が口を開いた。


「勇者アベル、聖女アンナ、イザヤを部屋に案内して」


「かしこまりました」


 リリスの専属侍女という肩書で、世話をするため控えていたアデーレが指示を出して彼らを部屋に戻した。ここから人族にとっては残酷で、多少話が始まる。議決に関しては当事者なので立ち会ってもらったが、年端も行かぬ少女達に聞かせる話ではなかった。


「すみません、先に戻らせていただきます」


 礼儀正しくアベルが一礼し、寡黙なイザヤも妹を抱き上げると頭を下げた。呼ばれた案内役のコボルトに連れられ、彼らは大広間から退室する。見送った魔獣達が、きちんと整列し直した。


「これから、人族に対する違法行為の処罰について申し上げます」


 アスタロトの宣言に、当事者であるドラゴンや魔獣達が目を輝かせた。

「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く