魔王様、溺愛しすぎです!
451. 親子喧嘩からの緊急会議
勇者アベルと聖女アンナは同じ場所に召喚された。異世界で普通に生活していたら、いきなり転移させられたという。その状況はほとんどイザヤも同じだった。ただ召喚された日時がずれている。
召喚魔法陣はアスタロトの眷属が発見した1つしか存在せず、すでに魔族の監視下に置かれたため研究用として写しを取ったら壊す予定だ。アスタロトが監督するなら問題ないだろう。
勇者と聖女が召喚される数日前に、イザヤはこの世界にいた。目の前に現れた見知らぬ人々に袖をまくられ、痣がないと失望されたらしい。勇者の紋章がなかったので、使い道なしと判断されて塔に閉じ込められたのだ。
「これが紋章? 痣だな」
アベルの左手の甲の模様に、イザヤが苦笑いする。不鮮明な模様なら、腕を少し強くぶつけたら間違えてくれたかもしれない。魔力を感知できない人族なら騙されるだろう。しかし知識がなかった当時のイザヤは、剣や槍を突きつけられて閉じ込められた。
勇者のお供くらい出来るだろうと、弓矢の練習はさせられた。まともな食料も衣服も与えられず、薄暗い塔の窓から街を見下ろす毎日だったという。勇者ではないため、イザヤに称号は与えられなかった。
数日後に召喚されたアベルが勇者の紋章を有し、隣に現れた少女が白い肌を持っていたことで聖女だと騒がれた。その騒動も塔まで届かない。
最終的に戦うことを強制されたアベルは、貴族のバカ息子ご一行様と一緒に魔の森に放り出された。その間、聖女呼ばわりされた少女は食事や水も与えられず、虐げられていたのだ。可愛い妹がそんな目に遭っていると知ったら、イザヤは脱走を試みていたと唇を噛んだ。
「まあ、人族がやりそうなことだよね」
お気に入りの焼き菓子を口に放り込み、ルキフェルが溜め息をついた。
人族にとって救世主である勇者の話すら、数百年で変質させてしまう。書物にして残すなり、口伝えする者を選定するなり、正しく伝える方法は沢山あるだろう。石碑に刻む方法もあった。それすら怠るくせに、勇者を祭り上げて死地に送り込むことだけは毎回忘れない。
いっそ、勇者の存在自体も忘れてしまえばいいのに。
「さて、今後の対応だが」
纏めようとしたルシファーに、リリスが首に抱き着いた姿勢で囁いた。
「全員、おうちで一緒に暮らすといいよね」
「ああ……いや、彼らは帰りたいんだぞ」
人族の都に、ではない。彼らがいた異世界に戻してやる方法を探る必要があった。幸いにして召喚魔法陣は無傷で入手できたのだから、あとはルキフェルが解析して、ルシファーが再構築すればいい。
「帰れるまで、魔王城に置いてもらっていいですか?」
アベルはすっかり城に馴染んで、ごく普通に希望を口にした。生来の前向きな性格が表に出てきて、表情も明るくなっている。どうやら城での生活は性に合うようだ。
「構わない。イザヤとアンナもそれでよいか?」
「「はい」」
話が決まった。そう思った瞬間、中庭のお茶会に乱入者が現れる。
「陛下、勝手に決めずに議会の承認を得てください」
どこから話を聞いていたのか。呆れ顔の吸血鬼王だが、最低限の礼を尽くす気はあったらしい。一礼して魔王への敬意を示した。
「お義父様、正論ですが突然失礼ですわ」
義娘の言葉に、アスタロトが肩を竦める。
「失礼は詫びますが、ルーサルカ。公の場ではアスタロト大公と呼びなさい」
逆に言い聞かされ、ルーサルカが「はい」と悔しそうに唇を尖らせる。よじよじと毛皮の上を移動したリリスが手を伸ばし、尖った唇を指で押し戻した。
「アシュタは意地悪。ルカをいじめないで」
「申し訳ありません。リリス嬢のご意見でも聞けません」
それはそれ、これはこれ。違う話ですと煙に巻かれ、リリスが「うーん?」と悩んで動きを止めた。その隙に魔法で引き寄せ、腕の中に抱き直したルシファーが宣言する。
「緊急会議を招集。大公から伯爵位まで集めろ」
「かしこまりました」
それまで和気あいあいとお茶を飲んでいた少女達を含め、侍女やアスタロトを含めた全員が最高礼をもってルシファーの言葉に頭を垂れた。
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