魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

443. 人道に外れた罠

「さっきの、時限式だったね」


 ルキフェルが目に焼き付けた魔法陣を解析しながら呟く。光を発した魔法陣は目くらましで、光の槍を隠すためのものだった。記憶を辿って魔法文字を読み解いたルキフェルは、発動条件に気づいて目を細める。淡い水色の瞳が、酷薄な色を浮かべた。


「発動条件が死んだ人数になってる」


 こんな発動条件を設定するのは、魔族ではないだろう。他人の命を紙屑のごとく使い捨てる方法だ。首都の地下に埋め込まれた魔法陣の上で、人が大量に死ぬことを想定した。そして死んだ人間の魔力を集めて一点集中で攻撃を仕掛けるタイプの罠だ。非常にたちが悪い。


「魔法陣の再現はできるか?」


「一部が不明だけど」


 すべてを読み取れたわけじゃないと言いながら、ルキフェルは目の前に魔法陣を再現した。発動条件を変更しなかったので、危険性は低い。青い色に輝く魔法陣は美しかった。文字や模様の位置も、絶妙のバランスの上に成り立っている。


「魔術に関する知識は優秀なようですね」


 ベールが感心したように声をあげる。洗練された魔法陣は、条件を満たしたことで自動的に攻撃したらしい。死んだ人族の魔力を代償に発動する仕組みなので、誰かが引き金をひくよう作られていなかった。仕掛けた時期は不明だが、非常に手の込んだ罠だと言える。


 強烈な光で視界を奪い、微々たる魔力を集めて作った槍を放つ。光で目が眩んだところを狙い、最も魔力量が高い敵を襲う術式だった。槍がすぐ飛ばなかったのは、魔力の収集が広範囲にわたることで時間がかかったのだろう。もし光と同時に飛んできたら、結界も間に合わない可能性があった。


 実際、大急ぎで展開した1枚目の結界は破壊されている。これが別の、もっと魔力量が少ない種族だったら結界が間に合わなかったり、間に合っても貫かれたはずだ。


「オレを狙ってくれてよかった」


 思わず本音が漏れる。危険を察知してすぐに結界を大きく展開したが、魔獣やドラゴンなどを狙われていたら、確実に被害者が出ていた。


「パパぁ、ここだけ黒い」


 光る魔法陣に興味を示したリリスが、いきなり中央の円を少しずれた場所を指さした。そのまま触れようとするので、慌てて指の先を握って避ける。発動しないはずだが、魔力量が高いリリスが触れるのは危険だった。予想外の爆発をされても困る。


「どこだ?」


「これ」


 指さした位置は魔法文字が記されているが、後ろに何か透けていた。薄い記号をルキフェルが手のひらに複写する。それまで黙って魔法陣を見ていたアスタロトが、焦った様子でルキフェルの手から記号を奪った。


「危ない!」


 アスタロトが張った結界の中で、記号が弾けた。ぱちんと乾いた音を立てて何かが飛び散る。咄嗟に結界を張ったルシファーとリリスに赤い血が降り注いだ。透明の結界が可視化される。弾かれた金属片が地面に突き刺さっていた。


「アスタロトっ!?」


 血に濡れた赤い手を興味深そうに観察するアスタロトは、無事を確認する主君の声に微笑んでみせる。多少痛むが大したことはない。すでに治癒も始まっていた。


「ご心配なく。右手だけで済みましたから」


 ベールがルキフェルを庇って背中に負傷し、後ろに控えるイポスも欠片で腕を切った。勇者と聖女にケガはなく、リリスを抱き込んだルシファーがほっと息をつく。


「助かった、ありがとう」


 ベールの背に刺さった金属片を抜く。治癒魔法を施すルキフェルが礼を言うと「お気になさらず」とベールが返し、アスタロトも頷いた。手首から先が千切れかけた右手も、すでに半分ほど治癒している。吸血種族の治癒力は他の種族の比ではない。自らの手を伝う血を確認するように舐めたアスタロトが眉をひそめた。


「やっぱり黒いの、ダメ」


 リリスが魔力の色を見るのは知っているが、危険も察知できるとは知らなかった。無事だったリリスの黒髪を撫でる。猫のように頭を押し付けて撫でることを強請る幼女をあやしながら、ルシファーは治癒魔法陣を作ってアスタロトの手に重ねた。


「ああ、やはり魔法陣の方が早いですね。ありがとうございます」


 一瞬で元に戻った右手を握ったり解いたりして、不具合の確認をしたアスタロトが笑顔で頭をさげる。後ろのイポスやヤン達にも治癒魔法陣を展開しておいた。口々に返る礼に頷くルシファーへ、足元で聖女を抱き寄せたアベルが声をかける。


「魔王様。さっきの記号を、僕は知ってます」

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