魔王様、溺愛しすぎです!
439. 物騒なメンバーが揃いました
何かを隠しているらしいが、その情報を聞き出すのが仕事だった。しかし自分より尋問の得意な者に心当たりがあるルキフェルは、2つの選択肢の間で迷う。自分だと拷問になってしまい、バラバラに壊してしまう可能性が高いのだ。
情報は欲しいが、獲物を譲る選択も悩ましい。
「ベールとアスタロト、どっちがいいかな」
ぼそっと呟いた名に反応があった。城門の前に魔法陣が浮かび、ベールが現れる。いつもの長いローブを捌いて駆け寄り、膝をついて抱き締められた。銀髪を結った軍服姿なので、仕事中だったと推測する。
「ルキフェル、呼びましたか?」
立ち上がって手を繋ぐベールの問いかけに「うん、名前を呼んだね」と曖昧な答えを返す。召喚したわけではないので、複雑な気持ちのルキフェルは手を握り返した。不本意ながら、やっぱりベールがいると安心する。
「お手伝いしますよ」
「ありがと」
保護すべき愛しい子であるルキフェルの声に、仕事をサタナキア将軍に押し付けてきた。父親役を自負するベールにしてみたら、当然の対応だ。
「口実をくれたことに感謝します」
城の塔が作る影からするりと姿を現したアスタロトが、優雅に会釈してみせた。どうやら2人とも参加する理由を待っていたらしい。大公であるルキフェルに呼ばれたという形式は、口実として最適だった。理由を察したルキフェルは、遠慮なく彼らを使うことにする。
「これから情報、聞きだす必要がある」
物扱いで指さした先で、3匹のドラゴンに囲まれた魔術師と王侯貴族が震えていた。数は15人あまりか。ひとまとめにされた彼らを品定めしたアスタロトが、にっこりと笑って提案する。
「情報はすべて私が聞き出しますので、半分ほどいただけますか?」
「欲張りすぎ」
「多すぎます」
ルキフェルとベールが不満を表明する。しかしアスタロトは飄々と続けた。
「ベルゼビュートが10人ほど確保したようですから、数人分けてもらえそうですよ」
ここで「分けてもらえる」と断言しないところが狡猾である。外交担当の本領発揮だった。
「隠れるのが得意なネズミ、ですか」
そちらも捨てがたいとベールが唸る。多少ごねるだろうが、最終的にベルゼビュートが折れることは確実だった。ベールの決断を支持する、そんなルキフェルの眼差しを受けて頷く。
「わかりました。半分でいいでしょう」
「情報を得るために、あれとそれから……これは絶対に置いて行ってくださいね」
アスタロトは金髪を風に揺らしながら、選んだ者を指し示す。国王と宰相だろうか。ごちゃごちゃと大量の宝飾品をぶら下げた豚に、ルキフェルは鼻に皺を寄せた。壊すならどれも同じだが、先に選ばれると損をした気分になるものだ。
「おいしいとこだけ、ずるい」
「おやおや、遠慮なく壊せるものを残しましたが」
言外に、選んだ者以外は壊して構わないと許可を出す。竜種であるルキフェルは膨大な魔力と魔法陣の知識を蓄えている。新しい魔法陣を試す実験材料として、壊しても問題ない者を選んだと言われれば、途端に余り物が魅力的に思えた。
ルシファーに任され、アスタロトが壊していいと断言した。つまり手加減は一切必要ないと言い換えられる。
「ベール、一緒に壊す?」
「そうですね。ベルゼビュートから少し追加をもらって、一緒に遊びましょうか」
言葉遊びで言い換えても、殺戮の宴が待っている未来は変わらない。繋いだ手を揺すってご機嫌のルキフェルに目を細め、ベールは愛おしそうに少年の髪を撫でた。小さな角がある頭部に触れると、擽ったそうなルキフェルが笑う。
「じゃあ、最初はこれ」
無造作に魔術師を一人選ぶ。手を離さないベールを引っ張って歩き、少年は愛らしい顔に似合いの満面の笑みを浮かべた。ドラゴンに押さえられた獲物へ、鋭い爪を生やした手を伸ばす。ガブリエラ国の国旗の下、魔族の饗宴が始まった。
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