魔王様、溺愛しすぎです!
416. お昼休憩はのんびり長め
「さらに詳しい説明が欲しい者は、個別にルキフェル大公と約束を取り付けてください。では、今から70分のお昼休憩に入ります」
解散と言わなくても、三々五々に散っていく。魔族の食事は種類が多すぎるため、夜会でもなければ用意はしないのが通例だった。生き血を飲む種族や生肉を好む者も多数いる。そういった者は少し離れた魔の森で餌を確保するのだ。
食事の確保に時間がかかることを考慮し、休憩時間は60分ではなく70分に延長された経緯がある。わずか10分だが、午後の会議への遅刻者が激減した実績のある10分だった。
「陛下、起きてください」
穏やかな笑みを浮かべて器用に寝ていたルシファーを軽く揺する。腕の中ですやすや眠るリリスが「ぱぱぁ?」と寝ぼけた声を出しながら目を開いた。
欠伸を噛み殺したルシファーが周囲を見回し「終わったのか?」と首をかしげた。呆れ顔のアスタロトが「お昼休みです」と答える。専門用語の羅列と、仮説が新たな仮説を生む話は、長く聞いても10分が限度だ。それ以上になると脳が拒否して睡眠状態になる、そうぼやきながらルシファーはリリスの頬にキスをした。
アスタロトの先導で控室に移動したルシファーは、用意された食卓の椅子の数に眉をひそめる。大公4人と自分で5つあれば足りる。リリスはいつも膝の上だから、間違っていないはずだった。なのに6つ用意された椅子の理由を尋ねようとしたところに、ルキフェルとベールが戻ってくる。
「ルシファー、勇者も一緒でいい? 午後からアベルも会議に連れていくから」
あざといくらい可愛い笑顔で頼む少年に、ルシファーは肩を竦めた。事情が分かれば、別に異存はない。アスタロトが何も言わずに用意したなら、手続き上も問題ないのだろう。アデーレが料理の皿を並べ終え、カトラリーをチェックしてお茶を淹れる。
「構わない」
さっさと座ったルシファーの左右をベルゼビュートとアスタロトが固めた。その先でルキフェルとベールが並んで座り、彼らの向かい側に勇者アベルの席だ。
連れてこられた人族の青年は、やや怯えている様子だった。偽勇者に連れてこられた時の方がふてぶてしい態度だったが、徐々に自分の立ち位置が理解できたのか。
「怯えずとも人族を食べる習慣のある魔族は、この場にいない」
魔族の中にも人族が食料になる種族は存在する。魔獣系などがその一例だが、アスタロトも人の血を吸わない以上、この場で人族が主食の魔族はいなかった。安心させようと告げた言葉に、なぜかさらに怯えられる。
「陛下、こういう場合は余計なことを言わない方が」
にっこり笑って釘を刺され、黙って頷くに留める。今のアスタロトの発言の後半が浮かんでしまい、ルシファーは溜め息を吐いた。「余計なことを言わず、怯えさせておいた方が使える」と言いたいのだろう。きっと何か聞き出す予定があるのだ。
「パパ……これやだ」
ぐいっと目の前の皿を押しのける。クリームシチューはリリスの好物で、キノコとコカトリス肉が入っていた。上に何やら飾られたハーブがあるが、どれが気に入らないのか。
「どれが嫌だ?」
「はっぱ」
見覚えのないハーブが乗せられていたので、気に入らないらしい。彩りとしての飾りだろう葉を横の皿にのけて、シチューの皿を引き寄せた。じっと見るリリスの唇はまだ尖っている。
「コカトリス肉は好きだっただろう? 野菜もリリスが食べたことがある物ばかりだ。ほら」
スープ皿の中をスプーンでかき回して見せる。じっと具材を睨むリリスへ、隣からベルゼビュートが声をかけた。
「あらやだぁ、お嫁さんなのに好き嫌いするの? 旦那さんが可哀そうよ」
意味不明の叱り方だが、驚くほどリリスに効果があった。ぱっと表情を変えて振り返り、皿の中身とルシファーの顔を交互に眺める。それから隣の皿に取り分けられたハーブを睨んだ。
「……リリスもあれ食べる」
シチューに乗っていたハーブを指さす。
「お嫁さんだから食べられるもん。パパがかわいそうくないもん」
すごい睨み方だが、食べるというなら食べさせてみる。好き嫌いなく育てたいルシファーとしては願ったり叶ったりの状況だった。ベルゼビュートがくすくす笑いながら「さすがはお嫁さんね」と褒めると、まだ食べていないのに得意そうな顔をする。
全員が席に着いたのを確かめ、「ご挨拶して」とリリスに囁く。両手を持ち上げて待つリリスの小さな手を魔法陣で清めて、愛用の金スプーンを渡した。
「いただきまちゅ!」
肝心な場面だと噛みやすいリリスの挨拶に和みながら、ルシファーが最初に口を付ける。続いてリリスに「あーん」と食べさせた。上位者が食べたのを確かめ、大公達が続く。ルキフェルが促すと、アベルもようやくスプーンを手にした。
「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
-
6
-
-
全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
-
14
-
-
ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
-
5
-
-
【旧版】自分の娘に生まれ変わった俺は、英雄から神へ成り上がる
-
32
-
-
《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。
-
2
-
-
乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
-
15
-
-
ある化学者(ケミスト)転生〜無能錬金術師と罵られ、辞めろと言うから辞めたのに、今更戻れはもう遅い。記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です〜
-
4
-
-
最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
-
4
-
-
聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
-
6
-
-
水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜
-
20
-
-
冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ
-
57
-
-
ガチ百合ハーレム戦記
-
15
-
-
魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?
-
12
-
-
悪役令嬢令嬢に転生?そんなもの知ったこっちゃないね!
-
4
-
-
夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
-
25
-
-
ルーチェ
-
2
-
-
世界を渡る少年
-
32
-
-
外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜
-
3
-
-
二度めの生に幸あれ!〜元魔王と元勇者の因縁コンビ〜
-
5
-
-
パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~
-
5
-
コメント