魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

415. 専門家の話は子守唄

 人形を着替えさせ終えると、抱っこして人形の髪を撫でる。自分と同じ黒髪のお人形がお気に入りのリリスは、温かく優しいルシファーの手にすり寄った。頬を押し付けて撫でるよう促す姿は、まるで猫が飼い主に甘えるみたいで愛らしい。


「可愛い」


 ぼそっと呟いたルシファーに、アスタロトが軽い咳ばらいをする。


「ごほん……陛下、御前会議ですから」


「ああ、わかってる」


 ならば控えてください。そう告げる眼差しに、ルシファーはようやく顔を上げた。当初の予定が大幅に狂っている。午後に行う召喚に対する対策を先に口にしたため、魔の森についての協議が自動的に午後に回ってしまった。


 ちらりと視線を向ける先で、アスタロトはさほど機嫌が悪そうでもない。ほっとしながら、リリスに飴を渡した。頬がリス状態になってしまうが、彼女のお気に入りなのだ。ピンクと白が螺旋を描く丸い飴を、ぱくりと口に入れると目を細めて幸せそうに笑う。


 目のいい種族は遠くからリリスの笑顔を焼き付けて、幸せに浸る。近くで精霊達も頬を赤く染めながら「可愛すぎる」と呟いた。


 ざわざわと波のように広がるリリスの噂が、見えなかった者の妄想を掻き立てる。彼女の笑みを近くで拝むと幸せになれるらしい、そんな噂に釣られた貴族達の日参がブームとなるのは少し先だった。


 リリスが飴を舐め終わる頃、ようやくルキフェルの報告が終わった。といっても、勇者に関する研究の報告なので、彼が一方的に話し続けるだけだ。今回は他の勇者と違い生け捕りにしたため、新しい情報がいくつか増えていた。


 勇者の運動能力や魔力量、魔剣や魔法陣との相性など……興味深い内容だが、大半の魔族は話についてこられず、居眠りを始めるものまで出た。報告したという建前が必要なので、ルキフェルも彼らに理解させるよう努力するつもりはない。淡々と報告を終えると、当然のようにベールと手を繋ぎ直した。


 甘やかすのをやめたはずのベールだが、1年前の『禁呪取り締まり中の魔王及び魔王妃暗殺未遂事件』以来、ルキフェルを片時も離そうとしない。何度か注意しようとしたアスタロトだが、ベールの番の件を知っているため言葉にできず、結局そのままにされた。


「ルキフェル大公閣下、質問をお許しいただきたい」


 ドラゴン系の伯爵家当主が挙手したのを、「どうぞ」とルキフェルは促した。赤い鱗が肌に残る竜人族の男性は一礼し、質問を口にする。


「勇者の魔力は、我々魔族と種類が違うということですか?」


 ルキフェルの報告に含まれた一文が気になったらしい。眠そうにしていたルキフェルが目を輝かせて説明を再開した。嬉しそうなルキフェルの表情に、アスタロトはちらりと時間を確認する。これはお昼休みまで、この話が続きそうだ。


「簡単に実験をしたんだけど、僕が改良した光を生む魔法陣は、どの種族も照明代わりに使っている。これだよ」


 拡大した魔法陣を空中に投影して見せる。攻撃能力がない魔法陣は、ただ明るく光る球体を生み出すだけの効果しかない。温度がなく明るさだけなので、ツリーハウスの中で使っても火事の心配がなかった。


 その上、魔力の消費量が少ないという利点もある。触れると光量を3段階で調整できる便利な魔法陣は、魔族ならば必ず最初に覚える日常生活の必需品だった。


「この魔法陣の利点は、魔力消費量が少なくどの種族も使える点だ。だから魔力量が多い勇者ならば、人族であっても使えるはず――なんだけど、彼は使えなかった。呪文もないから発音も関係なくて、魔力を流すだけ。実際に魔力は魔法陣に流されたのに、光球は生まれなかった」


「……なぜ」


 質問した伯爵の掠れた声に、ルキフェルはさらに詳細な資料を投影して仮説を交えた説明を続ける。抑揚のない少年の声が響く大広間は、30分もすれば半分が居眠りする有様だった。

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