魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

412. 全員集合、御前会議

 謁見の間には、久しぶりに多くの貴族が集まっていた。種族により大きさが違いすぎるので、地位や階級に関係なく小柄な種族から前に並ぶルールが適用される。そのため魔王の近くに寄りたい大きな種族は人型をとり、可能ならば子供サイズまで魔法で小さくなる者もいた。


 魔王に近づく理由が、憧れのアイドルを最前列で観たいという単純な動機に基づくため、咎めだてしにくいのが大公達の悩みの種だ。しかし人気が落ちて遠巻きにされるよりマシと、ルシファーが気にしていない。


 リリス嬢の安全のためという名目をつけ、通常の人型への変化へんげより小型になることを禁じるルールを法として追加したのは、わずか8年前だった。苦肉の策だが、席取りのケンカを防ぐ意味で非常に有効に機能している。


 入り口で必要以上に魔力を流して変化した者が見つかると、入室を拒否される。感知器を開発したルキフェルは、魔力感知器の性能に満足そうだった。


「今日の議題って何だ?」


「なんでも勇者絡みらしいぞ」


「あれ? 姫様が勇者だろう」


「偽者対策じゃないか?」


「10日くらい前に本物が来たんだって」


「「「「ええ!?」」」」


 精霊族はもともと小柄な者が多いので、前から2列目でひそひそと会話していたのだが、最後の情報で大声が漏れた。慌てて互いの口を押えて周囲に詫び、そっと互いの口を解放する。


「本当に本物?」


「陛下が確認されたらしいぞ」


「じゃあ、本物だ」


 再び小さな情報交換が始まり、幼児のような外見の精霊達が大人の会話をする奇妙な光景を、小柄なコボルトやドワーフが微笑まし気に見守る。


 精霊族は基本的に精神が幼い者が多く、噂好きで有名だった。彼らの会話を放置すると、周囲の貴族達は情報取集が容易に行えるので重宝がられている。本人たちが意図しないところで、他の貴族の役に立つ種族であった。


 まだ全員集まらないので、貴族達は隣人と情報交換に勤しんでいる。玉座の赤い絨毯の脇に立つ4人の大公も2人しかいなかった。ルキフェルとベールは手を繋いだまま、何やら顔を近づけて話こんでいた。時折ベールが口元を緩めることから、人族の侵攻への報復があるのでは? と憶測が飛ぶ。


「間に合ったかしら」


 ベルゼビュートがピンクの巻き毛をふわふわ揺らしながら近づき、空の玉座を見てほっとする。急いで駆け付けたので、ちょっと乱れた髪形を直し始めた。


「ベルゼビュート、身だしなみを……」


「今直してるじゃないの」


「……ベルゼビュート、胸」


 髪じゃなくて、胸元。そう指摘したルキフェルはくすくす笑っているし、ベールは顔をしかめた。それもそのはず、大きく胸元に入った切れ目から豊満な白い胸がこぼれ……かけている。ギリギリだが、かなり際どい。


「あ、あらやだ」


 多くの貴族達の視線を集めた胸元を「失礼」と笑顔で直し、何もなかった顔で手鏡を出して最終確認を始めた。大広間に続く観音開きの扉が音を立てて閉じられ、貴族の入場が終わったことを告げる。残るは魔王陛下とリリス姫、付き従うアスタロト大公のみとなった。


 今回は緊急招集にも拘わらず、ほぼ全領域の貴族が集まった。魔の森の拡大や魔物が増えたことへの不安が理由だろう。公爵から一代限りの名誉職である騎士侯まで、大きめに作られたドーム屋根の大広間が狭く感じるほど詰め込まれている。


 騒がしかった広間の声は、かつんと響いた靴音によって静まった。臣下としての最敬礼でベールやルキフェル、ベルゼビュートが腰を折ると、貴族達がさざ波のように礼を取って頭を下げる。


 しゃらりと衣擦れの音がして、聞き慣れた声が降ってきた。


「ご苦労、楽にせよ」


 ルシファーの声で、貴族達が一斉に頭をあげる。玉座に腰掛けたルシファーに抱き締められた幼女リリス、玉座の脇に膝をついて控えるアスタロト――魔族の御前会議が始まろうとしていた。

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