魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

409. 皆でやれば怖くない

 大きな天然毛皮に抱き着いて遊ぶリリスが満足した頃、ワンピースに地位を示すローブを羽織った少女達が駆け寄る。貴族や特殊な職に就く者は、外見で区別がつくよう10歳前後で専用のローブが与えられるのが通例だった。


 リリスも所有しているが、今は抱っこされる幼女なので使用しない。しかし側近の彼女達は常に身につけるようにさせた。上位貴族が長い裾のローブやマントを羽織るのは、この習慣に由来しているのだ。


「リリス様、お茶をご一緒させてくださいね」


 ルーシアの声に動きをとめ、リリスは毛皮の中から顔を見せた。大きな赤い瞳は見開かれ、嬉しそうににっこり微笑む姿は愛らしい。


「「「「か、可愛い」」」」


 ハモった少女達の声に「……可愛すぎてツライ」とルシファーが声を重ねた。顔を覗かせたリリスの脇に手をかけて、ひょいっと膝の上に戻すルシファーへ、アデーレがおしぼりを渡す。お菓子を食べる前に両手を丁寧に拭いてから、きちんとテーブルに向って座らせた。


「シア、ルカ、リー、ライ。どうぞ」


 ルーシア、ルーサルカ、シトリー、レライエを順番に愛称で呼んで、椅子を示す。一緒に座って食べようと促すリリスの額にキスをして「よくできました」とルシファーが褒める。それから彼女達に着座を許可した。礼を口にして座る少女達の前にも、菓子や紅茶が並ぶ。


「今日は勇者が来たとお伺いしましたわ」


「先ほど捕まえました」


 アスタロトが義娘の言葉に返す。するとレライエが不思議そうに尋ねた。


「処分はしなかったのですか?」


「就職希望だというのでな、ルキフェルに預けた」


 フルーツタルトは3種類、ベリー類と柑橘と桃だった。迷いながら桃を選んだシトリーが、ルキフェルの名に反応する。皿にフォークをぶつけてしまい、動揺しながら謝罪した。


「失礼しました……ルキフェル様にお預けした、のですか?」


「まあ、いきなり解剖したりはしないだろ」


「そうですね。解剖する前に申請するよう言い聞かせておりますから」


 物騒すぎる会話をスルーする強心臓の幼女は、アデーレにもらったタルトに目を見開いた。きらきらしたベリーが3種類も乗せられている。ジャムで艶を出したタルトを皿ごと引き寄せた。


「リリス、危ないぞ」


 記憶や知識はあっても、肉体年齢は3歳の子供なので不器用だ。フォークを握って突き立てるが、上手に口元に運べなかった。むっと口を尖らせるリリスの目が潤む。


「リリス。パパがあーんするから口あけて」


「やだあっ」


 自分でやりたいのだと訴える。少し考えて、タルトを小さく切り分けた。ここでナイフを使うと粉々になるので、風を操って一口サイズにカットする。それからリリスの目の前で、ひょいっとひとつ摘まんで口に放り込んだ。


 魔王自らが手で食べたので、一瞬動きを止めたシトリーがフォークを皿に上に戻す。彼女も風を使って上手に桃のタルトをカットすると、覚悟を決めて手で口に運んだ。普段はしない行動だが、子供の頃を思い出して楽しくなる。


 焼き菓子を食べ終えたルーサルカは柑橘、ルーシアはベリー、レライエは迷った末に桃のタルトを皿に取り分けた。一番豪快だったのはルーサルカだ。そのまま三角の先端から齧りついた。お行儀が悪いと叱る立場のアデーレも、状況から判断して注意はしない。逆に微笑んで肯定するように頷いた。


 ちらっとルシファーと視線を交わして頷いたレライエが、両手で2つに割ったタルトを齧る。侯爵令嬢でもあるルーシアが一番戸惑っていたが、赤いベリーを指先で摘まんで食べた。


「ほら、リリスだけ皆と違うぞ」


 手で食べる少女達と、自分を抱っこするルシファーの仕草をきょろきょろと確認して、小さな手がタルトを掴んだ。赤いベリーが転がるのを、シトリーの風がそっと抑える。微調整が上手な彼女に任せ、ルシファーは紅茶を飲んだ。


 さりげなく「みてないよ」と示したことで安心したのか、リリスは小さな口にタルトを頬張る。口の中いっぱいに頬張って、リスのように頬を膨らましながらもぐもぐ顎を動かした。喉を詰まらせないよう見守るアデーレが、ストローの先を差し出す。


 用意されたジュースでタルトを流し込んだリリスは、また小さな一片を手に取った。口の周りを赤く染めたまま、くるりと振り返る。


「おいちぃ……パパ、あーん」


「あーん」


 以前と同じように食べさせてもらい、ジャムやベリーでべたべたの手で抱き着くリリスに頬ずりする。純白の髪が赤く染まって、それでも嬉しそうに笑うルシファー達の仲睦まじい様子を、アスタロト達は微笑ましく見守った。

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