魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

401. あっちが勇者で間違いない

「魔王! 出てきて勝負しろ!!」


 剣を振り回す青年と、その後ろに4~5人が付き従う。魔術師の杖を持つ者が2人、残りは騎士か剣士らしき恰好をしていた。よく見ると1人は弓と矢筒を背負うため、短い剣を腰に下げている。


「陛下、ご足労に感謝申し上げます。いかがでしょうか?」


 実は勇者は魔王にしか区別がつかない。理由はわからないが、勇者が何代変わっても同じだった。アスタロトにとって、自称勇者も本物の勇者も同じ無礼者に分類される。これはベールやルキフェルも区別がつかないため、何らかの法則があるらしい。


 興味がないので、誰も研究しないで放置されている案件だ。魔族は寿命が長いせいか、必要な研究であっても「そのうち」と先回しにする。気が向かないこととなれば、指一本動かさない者も多かった。


 転移した城門から下を見つめ、喚き散らす青年の姿を目に映す。どこにでもいる普通の青年だ。重い金属鎧ではなく革鎧を使用している人族を上から下まで眺め、ルシファーは横に首を振った。


「違うな」


「偽者ですか」


 獲物が来たと嬉しそうなアスタロトに、ルシファーは首をかしげながら呟く。


「いや……あの騒いでるのじゃなく、後ろで弓を背負ってる方が勇者だ」


「……は?」


「え? なにそれ」


 後ろで話を聞いてたベルゼビュートも怪訝そうな声をあげる。ルシファーはもう一度よく確かめたあとで、弓を背負う青年を指さした。


「あっちが勇者で間違いない」


「パパ。ひとを指さしちゃメッなの」


 かつて自分が叱られた行為をしたルシファーの指を掴もうと手を伸ばす。ぐいと身を乗り出したリリスの身体が、城門の下へ向かって傾いた。慌ててルシファーが手に力を籠めるが遅い。


 3歳児は頭の方が重いため、くるっと腕から一回転して落ちた。防護用の魔法陣を親和性で通過するリリスは、大きな目をぱちりと瞬いて滑り落ちる。


 竜族や騎乗した種族が通り抜けることを考慮して高く作った城門の下に飛び降り、魔法で先回りしたルシファーは軽くリリスを受け止めた。再び腕に収まったリリスは「きゃーっ! もっかい!! パパ、もういっかい!」と大興奮で叫ぶ。


「こら、リリス。遊びじゃないんだぞ」


 叱るルシファーと、はしゃぐリリスの姿を門番達は微笑ましく見守る。落ちた瞬間は焦ったが、魔王陛下なら何とかすると考えて動かなかった。事実ルシファーは間に合ったのだし、万が一の場合でもリリス自身が魔法を使えるので問題はない。


「お前が魔王か! 俺と戦え」


 なにやら外野が騒がしいが、ルシファーはそれどころではなかった。はしゃいだリリスが暴れるため、再び落とさないよう左腕に座らせる。乱れた黒髪をブラシを取り出して整えるのに忙しかった。


「姫様はご無事ですか」


 ほっとしながら顔を見せたのは、城門の下で待機していたイポスだ。淡い金髪をきつく結う姿が増えた彼女だが、最近はポニーテールや三つ編みのこともあった。どうやらリリスの側近である少女達に何か言われたらしい。


「ああ、無事だ」


「ルシファー様、うっかりが過ぎます」


「悪い」


 アスタロトの注意に苦笑いしたところに矢が飛んできた。無視されて痺れを切らした勇者の仕業だ。弓矢を奪った勇者が2本目の矢を射る。しかしとんでもない場所に刺さった。


「下手くそ」


 ぼそっと辛らつな言葉を吐いたのは、門番だった。多くの勇者や英雄を自称する人族の襲撃を間近で見てきたため、見極めの能力は高い。今までの勇者達と同類の無礼さだが、腕前はかなり下――見た目は地味な門番の本音に、自称勇者は顔を真っ赤にして憤慨した。

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