魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

378. 魔王城は荷物がいっぱい

「実は……リリス嬢に記憶があるのではないかと思うのです」


 ぼそりと切り出したアスタロトの前で、ルキフェルが「うーん」と唸る。研究結果を書いた報告書を提出に来たのだが、アスタロトの執務室で捕まった。その隣ではベールが、ルキフェル用の紅茶にミルクを入れる。


「あたくしはないと思うわ」


 ベルゼビュートは赤く染めた爪を気にしながら、やたらと硬いクッキーを齧った。


「これ、硬いわね」


「非常食用ですから」


 城に備蓄していた非常食をすべて取り出し、先日から味見がてら分配先を検討しているのだ。本格的な冬が来る前に、各種族へ届ける予定だった。


 転移魔法陣があるため、配達に時間がかからない。しかし雪が降ると近隣の種族と行き来が出来なくなる地域もあるため、彼らが不安に陥る前に配達を完了させたかった。そのため徹夜で作業を進めるアスタロトを大量の備蓄リストが囲み、交代制で文官達が出入りしている。


「紅茶につけると美味しく食べられそう」


「どこの年寄りですか……ああ、8万歳を超える老女でしたね」


 アスタロトの嫌味も聞かないフリで、ベルゼビュートは紅茶でクッキーをふやかしている。アスタロトの機嫌が悪いのを察知して、本能的に避けているのだ。今まで長い年月の付き合いは、著しく優秀な感知機能を彼女に授けていた。


 その優秀過ぎる本能が「今は一切反論するな、危険」と告げる。


「アスタロト、そう考えた根拠をお伺いできますか」


 リリスと接する時間が少ないため、ベールには記憶の有無を判断する材料が足りない。花の形をした砂糖を乗せたスプーンをルキフェルに渡しながら、淡々と尋ねた。受け取ったルキフェルが紅茶にスプーンを沈めて頬を緩める。この行動はルキフェルが幼児の頃から変わらない。


「ルシファー様と話している時など、彼女が時折声を上げて遮るのですが。タイミングが絶妙すぎるのです。他にも愛想を振りまいて笑うリリス嬢の表情が、こう……なんと言えばいいのでしょう。10年前と明らかに違っています」


 言葉にして説明しようとしても、感じた違和感を上手に伝えられない。言葉を迷いながら探すアスタロトの様子に、ルキフェルは飲んでいた紅茶を置いて首を傾げた。


「違うのは当然でしょ。そっくり同じ時間を過ごしても、双子は違う性格に育つんだよ。以前より溺愛するルシファーに抱っこされてるリリスが、同じ性格に育つわけないじゃない」


 研究者ゆえの淡々とした指摘に、アスタロトは溜め息をついた。説明できないが、そういう違和感とも違うのだ。しかしルキフェルに理解させる言葉が見つからない。


「まだ1ヶ月も経たない今考えても答えは出ないでしょうから、もう少し観察してみたらいかがですか」


 ベールのもっともな提案に、大きな溜め息をついたアスタロトは頷いた。














「リリスの前の服……」


 ごそごそと収納魔法の空間を漁るルシファーが、謁見の間につぎつぎと箱や袋を並べていく。玉座の階段に座って始めた作業は、気づけば大量の荷物に大広間の半分が埋まる騒動になっていた。


 ルシファーが何かを取り出すたびに、侍従のベリアル達が遠くまで運んで並べる。繰り返す動きに、転移魔法が使えないコボルトは、ほとほと疲れ果てた顔で次の荷物を受け取りに来た。


「これだ!」


 やっと目当ての物を見つけたルシファーが、ピンクのセパレートタイプの服を引っ張り出す。隣でハイハイしているリリスが、大きな声に近づいてきた。危険がないようリリスの行動範囲を結界を張って確保したルシファーが手を伸ばし、近づいたリリスを膝の上に抱き上げる。


「ほら、リリス。この色はお前が大好きだったピンクだぞ」


 にこにこと笑顔で服を掲げて見せるが、リリスは隣の白っぽい服を掴んで引っ張った。


「あばぁ……ぶぅ」


 唇を尖らせて「ぶぅ」と繰り返すリリスの様子に、ルシファーは「こっちが好きなのか?」と尋ねる。リリスは理解していないのか、きょとんとした顔でルシファーを見つめた。それから服を放り出して移動し始める。結界を利用して立ち上がろうと手をつくリリスが、ころんと後ろに転がった。


「おっと!」


 咄嗟に手を出して頭を守りながら、背中に背負わせる人形の存在を思い出す。抱き上げて移動していたため、ほとんど使わなかったが……確かラミアの献上品だった。再び荷物漁りを始めた魔王が新たな荷物を取り出す姿を見て、コボルト達は仕事を放棄する。


「誰か、アスタロト閣下を連れてきて」


 ベリアルの疲れ切った声に、よろよろと同僚が謁見の間を出ていった。

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