魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

374. 曖昧な言い伝え

 執務室に入ると、腕を組んだベルゼビュートが待っていた。言い伝えとは彼女の言葉か。精霊女王だから魔の森に詳しいのだ……と納得しかけて、それはないと首を横に振る。知っていたなら、とっくに情報を提供していただろう。


 そもそも、伝えられたという表現から考えるに、寿命がある種族の間で親から子へ数代かけて伝聞してきた可能性が高い。ならば精霊女王である彼女は除外できた。


「陛下、あたくし達の知らない言い伝えが残されていましたわ。さあ、お話しして」


 促されてバルコニーから入ってきたのは、鳳凰アラエルだった。意外な登場人物に驚いて言葉が見つからない。


「アラエル?」


「はい、我が鳳凰族に伝わる話です。おそらく魔の森を示す言葉だと思うのですが」


 そう前置いた彼の話は、この場にいる魔王と側近達が初めて知るものだった。


「其は豊かな緑の泉、他者の命を食らうもの、世界の核を守るためにのみ、我が身を削るであろう。失われし命を補え。核は新たに輝きを取り戻す……もう少しあったそうですが、失われています。これが何を意味する言葉か、知らずに覚えて伝えてきました」


 すべての鳳凰族が同じ話を伝えているのか、系統が違うと知らないのか。または系統が違う家には違う話が伝わっている可能性もある。


 複雑な状況だが、確かに魔の森を示す話のような気がした。


 少なくとも今回の魔の森の惨状を聞いたアラエルは、親に覚えさせられた口伝をすぐに思い浮かべたという。なんらかの手がかりになればと名乗り出たのだが、確証がないので彼も困惑気味だ。


 執務机の前で円陣を作る形で顔を付き合わせて、今聞いた言葉を文字に起こした。達筆だが神経質そうな文字でベールが書き記した文面を、睨むように全員で見つめる。


「うぅ! だぁ、あ」


 リリスが仰け反るため、落とさないよう抱きしめ直したルシファーが呟いた。


「他者の命を食らうは、魔力を吸収する魔の森を示しているのかな」


 ここの表記だけならば、魔物を食らう魔獣や血を飲む吸血種も該当する。しかし続く文章は、魔獣や吸血種には関係ない気がした。


「核は人物、物や場所、どれでもおかしくないですね」


 考え込みながらアスタロトが呟く。隣のベルゼビュートが、答えるように考えを述べた。


「豊かな緑の泉は森を表現してるし、魔の森よね。我が身を削るは、今回の立ち枯れを示すのかしら。陛下の近くはともかく、外周が枯れたのは異常だわ」


「それ以前の問題だけど。僕が知る限り、魔の森が魔力を吸い取ることはあっても、他者に与えた記録はない。魔力の流れは常に一方通行だったはず」


 魔の森が伐られたり焼けたことで、他者の魔力を吸い上げるのはいつも通りだ。しかし他者が傷ついたからといって、魔の森が魔力を放出して助けた逸話は存在しない。生き字引のように歴史を暗記したルキフェルの指摘に、誰もが自然と窓の外へ視線を向けた。


 魔王城を囲む形で広がる森は、いつもの緑の葉が落ちて茶色い幹や枝を晒している。応急処置として、魔力量の多い神龍族や竜族が魔力を流したが、失われた魔力量には程遠かった。


「鳳凰族の他の血統はもちろんですが、神獣や幻獣の中に似たような話が伝わっているかも知れません。調べてみましょう」


 ベールの提案に、顔を見合わせたルシファーとアスタロトが頷く。


「他の種族も同様の言い伝えを残していれば、話が繋がる可能性もあります」


「ご苦労だった。アラエル、貴重な話をありがとう」


 礼を言って、鳳凰の細い首を撫でる。気持ちよさそうに目を細めたアラエルは、「お役に立てたなら幸いです」とバルコニーに続く窓から出て行った。


「ところで、アラエルは窓から出入りしてもいいのか?」


 ルシファーがリリスを迎えに行く際、窓から出入りして叱られた記憶が過ぎり、不公平だと匂わせながら側近達に訊ねる。


「問題ありません。あの大きさの鳥が出入りするには、この部屋の扉が狭いのですよ」


 にっこり笑うアスタロトは、さらに言葉を続けた。


「そもそも鳥は窓からくるものでしょう。人である陛下とは違います」

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