魔王様、溺愛しすぎです!
372. 魔族最強種族は赤子でした
ベールが付け加えた言葉に、ルキフェルが「僕も協力するよ」と名乗りをあげた。研究や記録に関しては右に出る者がいないルキフェルの協力に「心強いですよ」とベールが髪を撫でる。
「おかしい、オレにだけ冷たい」
ぼそっと呟いたルシファーだが、左腕のリリスが「るぅ!」と呼んだ途端に頬を緩めた。歯茎が痒いのか、また指を咥えようとするので、取り出したおしゃぶりを与える。むぐむぐと口を動かして身を揺する赤子が、真っ赤な目でオレリアを見つめた。
何か気になるらしく、じっと見つめたまま動きを止める。オレリアが首をかしげた動きで、さらりと薄緑の髪が流れた。とたんにリリスが興奮してじたばた動き出す。手を伸ばす仕草からして、髪が気になるのだろうとルシファーは判断した。
「ごめんな、リリス。報告が終わったらね」
「うぅ!!」
赤子に「後でね」は通じない。今触りたいのだと暴れ出してしまった。場は和むが、一応公的な場なのでルシファーは困惑顔で抱き直す。縦に抱っこしてリリスの視界からオレリアを外そうとする。しかし赤子は柔らかい身体を反らせて、無邪気に手を伸ばし続けた。
「……えっと、休憩をいれていいか?」
「仕方ありません」
あまりに暴れるリリスに驚いたベールやアスタロトも、苦笑いして許可を出した。多少騒ぐことはあっても、過去にリリスがこういった行動に出たことはない。赤子らしいのだが、この様子では少女の頃の記憶は残っていないかもしれないと、彼らは肩を落とした。
玉座から立ち上がったルシファーが階段を下りて、立ち上がったオレリアに向けてリリスを近づける。
「オレリア、ちょっと頼む」
「はい」
素直に長い髪を触らせようと差し出すオレリアだが、リリスが気になったのは耳だったようだ。小さな手を伸ばして、ぎゅっと耳の先を握った。赤子の手は遠慮を知らないため、勢いよく耳を引っ張る。
「い、った……」
「悪い。リリス、離して。ダメだぞ」
強く掴んだ赤子の手を外そうとするルシファーの横から、別の手が入った。慣れた手つきでリリスの手を緩めると、指を一本握らせて上下に振る。しわがれた手を揺すって笑うリリスは、別に耳じゃなくても構わないらしい。
「モレクは慣れてるな」
「ここ数年は孫の相手ばかりでしたゆえ」
年の功というべきか。別の物に興味を移せばいいと解決方法を示した老人の横から、イポスが顔を寄せた。今度は結った金髪が気になるリリスは、掴んだ指を離して小さな手を伸ばす。
「リリス?」
きゃっきゃと声を上げてイポスの金髪に触れたリリスは、結い上げられた髪が掴めないことに顔を歪める。大きく息を吸い込んで泣き出しそうになった。
「あらあら、すっかり元通りね」
ベルゼビュートがピンクの巻き毛をひらひらと揺らして興味を引く。すぐに掴んだリリスが目を輝かせた。興味の対象がつぎつぎと移るのは、大切な成長過程のひとつだが……以前よりお転婆になったかも知れない。
「前もヤンの耳を引っ張ったり、陛下の指を折ったりしましたから」
言われてルシファーも懐かしく思い出した。獣人の尻尾の毛を毟ったこともあった。おしゃぶりをもぐもぐしながら、リリスは大きな目に映るすべてに興味を示す。まるで人生をやり直しているようだ。
「ゆっくり成長すればいいと願ったこともあったな」
くすくす笑い出したルシファーの本音に、アスタロトも「確かにそのような発言をされましたね」と頷いた。あの頃はリリスが成長するたびに「抱いていられる赤子の期間が短い」と文句を言いながら、なんとか腕の中に留めようとした。ある程度大きくなっても抱いて歩いたのは、寂しかったせいだ。
「いいことじゃないの。大体あの魔力量で子供時代が短すぎたわ」
ベルゼビュートに指摘されて気づいた。確かにそうだ。リリスの魔力量からして、数万年の寿命があるはずだった。ならば子供時代は相応に長く、自分で時を止めたルキフェル程ではなくとも、少女の外見に育つまで100年単位の時間が必要だろう。
人族や魔獣のように寿命が少ない種族ならばともかく、長い年月を生きる種族ほど子供の期間は長い傾向にあった。ゆっくり成長して必要な知識を蓄えて身体を成長させなければ、大人となってからの長い命を全うできないのだ。
人族のハーフという先入観があったため、誰も異常だと指摘しなかった。結婚適齢期の15~6歳前後の外見に育つには、本来100年以上の時間がかかる。
「そうだったな、初代オレリアの時も100年かかった」
上級妖精族の養い子である初代オレリアは、目の前のオレリアの曾祖母にあたる。彼女を拾った際は3歳前後の外見だったが、最終的に大人になって婚姻相手を見つけるまで120年かかった。
ハイエルフより長寿のリリスが、1年ごとに人族と同じ年の取り方をするのはおかしい。
「リリス姫は急激に成長されましたから」
「今考えるとおかしかった気がします」
口々に意見を述べながら、手持ちの小物でリリスをあやし続ける側近や貴族達に、ルシファーは目元を和らげた。分裂しそうな魔族の亀裂を、腕の中のリリスが修復してくれた気がする。今にも自害しそうだったモレクやエドモンドの穏やかな表情を見ながら、心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
ある化学者(ケミスト)転生〜無能錬金術師と罵られ、辞めろと言うから辞めたのに、今更戻れはもう遅い。記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です〜
-
4
-
-
聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
-
6
-
-
全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
-
14
-
-
S級魔法士は学院に入学する〜平穏な学院生活は諦めてます〜(仮)
-
3
-
-
《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。
-
2
-
-
最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
-
5
-
-
【旧版】自分の娘に生まれ変わった俺は、英雄から神へ成り上がる
-
32
-
-
ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
-
5
-
-
悪役令嬢、職務放棄
-
10
-
-
水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜
-
20
-
-
乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
-
16
-
-
パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~
-
5
-
-
婚約破棄されたので帰国して遊びますね
-
11
-
-
夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
-
25
-
-
深窓の悪役令嬢
-
15
-
-
聖女(笑)だそうですよ
-
6
-
-
魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?
-
14
-
-
婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~
-
11
-
-
冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ
-
57
-
-
聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
-
7
-
コメント