魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

367. 全員、話があるのか?

 男が必死に暴れる。圧し潰す力に対抗する魔力が、じわりと男の全身からあふれ出した。潰されまいと足掻く丈夫さに、ルシファーが声を上げる。


「なるほど、ドラゴン種か」


 魔力の質で見抜いたルシファーが、さらに魔力を乗せる。重ねた魔力には魔法陣のような規則性はなかった。ただの圧倒的な力があるのみだ。羽を7枚失ったとしても、未だに純白の魔王の魔力量は尽きていない。肺を潰された男が血を吐き出した。


 ドラゴン系は力こそすべてだ。強者を貴ぶ魔族の習性を最も強く表明し、掲げる種族だった。彼らにとっては、強者に戦いを挑んで倒されることも誉のひとつだ。今回もそうだろうと踏んだルシファーだが、アスタロトは全く違う見解を持っていた。


「陛下、このの詮議をお任せください」


 含みのあるアスタロトの申し出に、ルシファーが眉をひそめる。ドラゴン種だと判明した以上、同族であるルキフェルに身柄を預けるのが一般的だった。にも拘らず、通例を無視して申し出るならば思惑があるのだろう。


「……わかった」


「ありがとうございます」


 丁寧に一礼したアスタロトが捕縛の鎖で男を縛り上げると、ルシファーはすぐに魔力を散らした。左腕のリリスは怖がる様子もなく、大人しくしている。無意識にリリスの黒髪を撫でながら、まだ落ち着かない感情を宥めた。


 このまま引き裂きたいと思う反面、アスタロトが止めてくれたことに感謝している。


「失礼いたします。陛下、別件になりますが報告がございます」


 報告書のファイルを抱えたベールが、同様に書類を取り出したルキフェルと頷きあう。どうやらこの騒動は単純な酔っ払いの喧嘩ではなく、何らかの罠だったらしい。


「部屋で聞こう」


 先に立って踵を返すと、ベールとルキフェルが従う。中庭を通り抜けて執務室の扉の前で振り向くと、驚くほどの大名行列になっていた。すれ違う侍従や貴族が慌てて避けるので、おかしいとは思ったのだ。ひとつ溜息を吐いた。


 ベール、ルキフェルは当然だ。その後ろに続いたのは、ヤン、ピヨ、アラエル、イポス、罪人を牢に預け終えたアスタロト、何故か数人の貴族達。


「全員、話があるのか?」


 頷いた大公3人はいいとしよう。ヤンは平然と「我は姫の護衛ですから」とのたまった。同じだと頷くサタナキア公爵令嬢イポスまでは納得できる。しかし鳳凰カップルは城門へお引き取り願うことにした。文句を言って騒ぐピヨを咥えたアラエルが、心なし嬉しそうに飛んでいく。


 ついてきた貴族は順次名乗りをあげた。


「ハイエルフ種族長の孫オレリア、ベール大公閣下の招集によりはせ参じました」


「直答お許しください。ドラゴニア公爵家エドモンドにございます」


「神龍族タカミヤ家当主モレク、重要なお話があり参上いたしました」


 有力貴族の当主や子女に、ルシファーは執務室の扉を閉めて大公達に目配せした。


「ならば謁見の間で話を聞こう」


 一度戻る形になるが、中庭を回り込む途中でベルゼビュートを回収した。上級精霊族ニンフである彼女は二日酔いの不調を癒すため、中庭の薔薇園で休んでいたのだ。まだ青白い顔色をしているが、何か察した様子で文句も言わずついてきた。


 謁見の間につくと、常に扉を守る衛兵が敬礼して開いた。ドワーフ渾身の作である、柱を極力省いたドーム状の大広間をまっすぐに横切る。立派な彫刻を背負う壇上へ向かい、自分以外が座ることを許されぬ玉座に腰を下ろした。


 玉座へ向かう階段脇にベールとルキフェルが控え、秘書でもあるアスタロトが玉座の斜め前で膝をついた。公爵家当主2人に並んでヤンが座り、大きな尻尾をくるりと巻く。


 ベールと向き合う反対側に立ったベルゼビュートの後ろで、護衛のイポスがそっと姿勢を正した。オレリアが優雅に跪礼カーテシーをして公爵達の後ろに控える。


「るぅ!」


 緊迫した空気を引き裂くように、左腕に抱かれたリリスがルシファーを呼ぶ。艶やかな黒髪を撫でてから旋毛にキスをして、リリスに小さなぬいぐるみを抱かせた。犬のぬいぐるみを口元に運び、耳を齧る。リリスが大人しく遊んでいるのを確かめて、ルシファーは側近へ声をかけた。


「アスタロト、任せる」


「かしこまりました」


 満面の笑みで応じたアスタロトが、ゆったりと立ち上がった。

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