魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

363. およその月齢が判明しました

「身長は……70cmくらいですね」


 ルシファーが抱っこしている間に、取り出した巻き尺でさっさと測ったアスタロトが呟く。ルシファーが保管していた成長記録によると、生後2~3ヶ月の彼女を拾って半年後の身長と一致した。


「9ヶ月くらいか」


 隣から覗き込んだルシファーの腕を掴んだリリスが、ぶんぶんと身体を揺する。この動きからしても、つかまり立ちした頃で間違いなかった。


「成長記録を残して正解でした」


 育児手帳には離乳食の内容も記してある。今後の育て方の参考になるし、折角だから今回もきちんと記録することにしたルシファーが、さらさらとメモを取り始めた。


「魔王様、こっちで一緒に飲みましょう」


「何言ってんだ。男同士で飲み明かすんだぞ!!」


 頬を赤く染めた女性たちと、明らかに飲み過ぎた男性たちの間で取り合いが始まる。無視してメモを終えたルシファーは、ダークプレイスの住民へひらひらと手を振った。


「リリスの離乳食の時間だから失礼する。皆は楽しんでくれ」


 宴会場から中庭へ移動した。ここでは酔い過ぎた年寄り貴族に絡まれ、お腹が空いたリリスが泣き出してしまう。駆け付けたベールが相手を引き継ぐことで、なんとか自室までたどり着いた。もみくちゃにされたルシファーはよれよれで、宴会前に多少身だしなみを整えたとはいえ散々な姿だ。


 途中で侍従のベリアルを掴まえて頼んだ離乳食が届き、自分の着替えを指パッチンで済ませたルシファーは自室のソファに落ち着いた。アスタロトは向かいで紅茶を飲みながら寛いでいる。


「疲れた……」


 膝の上で「だあ!!」と怒りの声を上げるリリスの口元に、用意させた離乳食を運ぶ。彼女が大好きだった擦り下ろし林檎を、口元に運ぶとぺちんと手で叩かれた。以前より意思表示が激しい気がする。頭をぶんぶん振って拒否を表明した。


「んー!」


 好みが変わったのか。それとも食べさせた食器が気に入らないのか。パパが気に入らないとか言ったら泣くぞ。混乱しつつ、収納空間からつぎつぎと当時の食器や家具を取り出した。鮮やかな花模様の前掛けエプロンをつけ、当時使っていた金色のスプーンを見せる。


 真っ赤な目を輝かせて手を伸ばすので、どうやら食器が原因らしい。ほっとしながら浄化で清めたスプーンで、林檎を口に運んだ。


「あーんして」


 唇をスプーンでつつくと、ぱくりと口を開ける。少量流し込むと、両手がじたばた鳥のように動いた。味はお気に召したようだ。ほっとしながら再び食べさせる。膝の上で横抱きにしたリリスは、ルシファーの顔をじっと見つめたまま、1/2個ほど食べ終えた。


 多めに用意させたのに食べてしまったリリスは、とろんとした目で小さな欠伸をする。


「……けふぅ」


 満足そうなリリスの背を撫でてあやしながら、手帳に書かれた内容を急いで記憶していく。一気に20日分ほど予習すると、目の前の側近に言い放った。


「明日から書類整理はこの部屋でする」


「なぜですか?」


 執務室を広くしたのだから、あのころと違ってベビーベッドを隣に置いて作業が出来るはずだ。飲んでいたカップを机に戻し、アスタロトは首をかしげた。


「あの頃と同じ条件の方がいいだろう」


「意味がわかりません」


 普段はマニュアルをすっ飛ばして行動するくせに、なぜ育児だけ前回の通りに拘るのか。一言で否定されてルシファーが眉を寄せる。


「違っていいのか?」


「そもそも最初に育てた時も、育児書をよく読まずに育てたじゃないですか」


 必要になると慌てて本を開くの繰り返しだった。現実を突きつけられ、ルシファーは「そ、そうだったっけ?」と視線を逸らす。


「明日は朝から執務がありますから、ちゃんと寝かしつけて休んでください」


 きっちり言い聞かせて、礼儀正しく一礼して部屋を出ていく。側近の後ろ姿を見送りながら、ルシファーは疲れた身体をソファに沈めた。


「本当に生きてるよな、リリス」


 はふはふと欠伸をして眠りそうな赤子の頬に唇を寄せ、額にもキスをする。それからぎゅっと抱きしめて、夢じゃない温もりに安堵の息をついた。

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