魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

345. 緊急事態ですが、夕暮れまで

「正体不明です」


「「はぁ……」」


 再びハモってしまう。仕事が出来る側近がきりりとした顔で、正体不明を告げる状況が思い浮かばない。今まで魔王城に攻め込むのは、勇者と勇者と勇者(仮)と勇者(偽)と勇者を騙る奴……つまり人族くらいだ。ゾンビ事件直後は、どこぞの王国の兵士とやらも攻めてきたが……。


「人族じゃないのよね?」


 素直に疑問をぶつけるリリスへ、アスタロトは首を横に振った。


「残念ながら、人族には見えません。近いのはキマイラでしょうか。現在ルキフェルが応戦しておりますので、夕暮れまでにお戻りください」


 空を見上げるが、まだお昼くらいだ。夕暮れと言えばあと数時間もあった。


「緊急事態だろ……夕方でいいのか?」


「一応の建前ですね。ルキフェルが楽しそうなので、あまり早く戻るとベールに恨まれます」


 なるほど……と思う反面、それでいいのか? と首をかしげるルシファーだ。昨夜リリス達がキマイラと戦ったのを見て、気分が高ぶっていたのだろう。そこへ都合よくキマイラっぽいのが来た。竜族は好戦的な種族なので、戦うチャンスと飛び出すはず。


 ここまでは簡単な話だ。攻め込まれた城にいた戦力としてルキフェルが応戦するのは当たり前だが、留守にした城の主が早く戻ると恨まれるのは、何かおかしい。自分の城を守る為に帰るのに、部下の機嫌を気にするのは違う気がした。


「現在の戦況は?」


「圧倒的にルキフェル有利です」


「……わかった。お前もお茶を飲んでいけ」


 いろいろ面倒になったルシファーが新しいカップを取り出して渡す。デートのお邪魔虫だが、嫁入り前の魔王妃候補が魔王相手とはいえ男と2人きりで出かけることは、本来は問題があるらしい。即位した頃に決められた貴族や魔王に関する法典の内容なので、今後は改正してしまう予定だった。


 今回はヤンが護衛に就くことで、男女2人きりじゃないと示していたのだが、アスタロトが加われば誰も文句はないだろう。バケットサンドや焼き菓子が並んだ敷物の端に座ったアスタロトは、自ら収納空間からクッションを取り出した。


「ところでリリス嬢、それは何ですか?」


 目ざとい側近は、彼女が大切そうに膝に乗せたソーサーでうごめく小人に気づく。出来るだけ隅の方で、ハムの欠片を必死で齧っていた。


「瓶で流れてきたのよ。さっきパパと助けたの」


 美しく整えられた指先で、パンを千切ってソーサーの上に並べるリリスは、世話を焼く状況を楽しんでいた。言葉を話す様子はないが、こちらの言った内容は理解しているらしい。ある程度食べて落ち着いたのか、新しいパンはゆっくり噛んで食べていた。


「新種、でしょうか」


「やっぱ心当たりないよな? オレも新種のような気がするんだが……問題は仲間がいるかどうかだ」


 種族として登録するには、ある程度の個体数が必要だ。突然変異の場合は、元の種族の枝分けという形で登録される。しかし手のひらに乗るサイズの小人は登録がなかった。この小人1人しかいない場合、種族として認められないのだ。


「言葉は通じていますか?」


「こちらの言った内容は理解するが、今は声を発していない」


「難しいですね」


 こういった登録関係は文官であるアスタロトの管轄だった。この小人について調べたり研究するなら、ルキフェルの領分になる。


「調べるのは城に戻ってからか」


 魔王城の城門が簡単に破られるはずはなく、大公2人がいる以上何も心配はいらない。のんびりお茶をして、遅いお昼を食べた彼らは太陽が西に傾いてから城へ戻った。

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