魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

326. 心の声が駄々洩れでした

「今日はパパをなんて呼ぶの?」


 舞踏会の会場で「パパ」と呼称したら、さすがにマズい。純白の髪色や肌の色で正体は皆が知っているが、知らないフリで過ごすのが仮面舞踏会の決まり事だ。それはよほどの無礼でなければ許される、寛容なパーティーだった。


「そうだな……仮面舞踏会では本名を隠すものだから、サタンと名乗るよ」


 以前も使った名を告げると、リリスは「サタン」と口の中で繰り返した。向き合って抱き締めたルシファーの衣装は黒だ。光の加減で紫がかった刺繍糸が模様を浮き上がらせる生地に頬をすり寄せたリリスが目を輝かせた。


「パパじゃないみたいね」


「今日はリリスのパパじゃなくて、サタンという男だからね」


「リリスじゃなくてリルと呼んで欲しいわ」


「わかったよ、リルお嬢様」


 抱き合ったまま会話を続ける2人に、周囲は必死に視線を逸らし続けた。凝視するのはさすがに失礼だろう。王妃の間として作られた部屋の、廊下につながる扉がノックされる。


「ん?」


 アデーレが応対して通したのは、正装したアスタロト達だった。即位記念祭や夜会のように髪を結い上げたアスタロトは、銀の簪を差している。銀糸の刺繍が入った白い服を身に纏っていた。ルキフェルは民族衣装である漢服をゆったりと翻し、ベールは禁欲的な軍服で参加するらしい。


 最後に顔を見せたベルゼビュートはピンクの巻き毛を夜会巻きにして、きっちり結い上げていた。胸元と背中が大胆に開いた衣装は、豊かな胸元を強調する。白い肌を際立たせるためか、艶のあるネイビーのドレスだった。


 カーテシーをするベルゼビュートの優雅な動きにあわせ、大公3人も膝をついてルシファーに敬意を表する。ひらりと手を振って立ち上がるように促すと、4人は礼を解いた。


 にっこり笑ったアスタロトが警告を口にする。


「ルシファー様、今夜の舞踏会は多少騒がしいかもしれません」


「……逆に騒がしくなかった夜会があれば教えて欲しい」


 ぼそっと呟いたルシファーの顔がひきつる。8万年ちかい治世の中で、最初の頃は暗殺未遂が多発した。ようやく落ち着いてきたら、今度は魔王妃の座を巡って争いが起きる。だんだんと夜会を嫌って出席しなくなるルシファーを引きずって参加させるのが、大公達の役割になっていた。


「いつも以上に、ですよ」


 笑いながら念を押す側近へ、溜め息をついて頷いた。腕の中で背中に手を回したリリスの温もりに癒されていると、腰に回されたリリスの手がぽんぽんと背を叩く。顔を覗き込むと、嬉しそうに笑った。どうやらアスタロトと会話しているルシファーの気を引きたかったらしい。


「なんでこんなに可愛いんだろう。やばいだろ、絶対に狙われる。こんなに可愛いリリスを狙わない奴がいたら、殺すかも……ああ、可愛すぎる。奪われないように閉じこめたい」


「心の声が全部漏れています、魔王陛下」


 ベールが淡々と指摘する。内心で呟いたつもりがすべて声に出ていたルシファーは、リリスの前髪をかき上げて額にキスをした。


「いいか? リリス。男は危険な生き物だから、突然連れ出されそうになったり、抱き着かれたり、口説かれたり、耳に息を吹きかけられたり、キスされそうになったり、挨拶の際に手を握られたら、魔法をぶっ放していいぞ。オレが許す!」


 魔法ってぶっ放すものなのね……顔を見合わせるシトリーやレライエの顔が引きつる。しかし頷くルーサルカは「わかるわ」と同意していた。ルーシアはにっこり笑顔を浮かべて、上手に内心を隠しとおした。彼女が何を思ったのか、誰も知らない。


「せめて挨拶は我慢してください」


 淑女の手を取って唇を寄せる挨拶は、普通に行われるものだ。下心ある口説き行為は困るが、それ以外は多少我慢してもらいたい。ベールの指摘に「大丈夫よ、私はわかってるわ」とリリスが返事をした。

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