魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

318. 暴走する鳳凰達の共同作業

「ぐあぁ!! ママに何するのさ!!」


 ピヨ渾身の羽ばたきが爆弾を遠ざける。それだけで終わればよかったが、ピヨは爆弾に怒りの突進をかました。希少な鸞が青い翼を広げて飛び掛かり、慌てて番の鳳凰アラエルが後を追う。


 ピヨが跳ね飛ばした爆弾は、城門から離れた場所で爆発した。轟音と振動は届くが、ヤン達に被害はない。番という恋人が出来たピヨだが、まだまだ幼過ぎて母親役のフェンリル離れは当分先になりそうだ。すごい勢いで、城門から坂を駆け下りていく。


 後ろから駆け寄るピヨの勢いに思わず避けてしまったアスタロトだが、我に返って叫んだ。


「待ちなさい!」


 アスタロトの制止は間に合わず、ピヨが炎を吐いた。その後ろからさらに巨大な炎による援護が飛んでくる。ちょっとピヨの後頭部に炎が触れたが、鳳凰同士なら互いを傷つけあうことはない。ピヨの上を通過した炎は、あっという間に人族を炭にした。


 冗談や比喩ではない、文字通りの炭だ。見事に真っ黒になった人の形をした炭は、飛び掛かったピヨによって踏まれて崩され……やがて土に混じった。鼻息の荒いピヨの興奮が収まるまで、根気強く待つアラエルは微笑まし気に番の行動を眺めている。


 この場の空気は一気に緩くなった。今回は血なまぐさい光景もなかったし、芝も大して荒れていない。襲ってきた人族は自業自得なので、誰も同情していなかった。後片付けは毎回大変なのだ。


「アラエル。あなたまで暴走しないでください。この場合は止めるべきでしょう」


 苦言を呈するアスタロトに詫びる姿勢を見せるが、本心から悪いと思っていないのは明白だった。なぜならアラエルは謝罪しなかったのだ。


ピヨが危険だったものですから」


「……陛下じゃあるまいし」


 ぼそっと呟いた声は、ルシファーの地獄耳が拾っていた。城門から身を乗り出して、下にいる側近へ向かって抗議する。


「ちょっと待て。オレは悪くないだろ!」


「普段の行いをかえりみてからおっしゃってください」


 ぴしゃりと取り付く島もない冷たさで言い切られる。むっとするが、リリスは「ピヨ、すごい」と素直に感動していた。その後ろでは「番に対する愛は最強ね」と鳳凰アラエルの行動を、少女達が称賛する。


「……とりあえず、お茶会の続きをしよう」


 戻るために魔法陣を作って手招きすると、イポスと4人の少女達が飛び乗った。一足先に戻った魔王一行を追いかけて、ヤンも駆け戻る。アデーレが新しい紅茶を用意し終えた頃、ようやくアスタロトがピヨを摘まんで転移してきた。


 後ろから飛んできた鳳凰アラエルが、なんとかピヨを取り戻そうとアスタロトの脇から隙を狙う。


「ピヨ!」


 リリスが手を伸ばすと、仕方なくアスタロトも青い鳳凰から手を離した。地面に尻から落ちたピヨは立ち上がると、リリスの膝に飛び乗る。


「……っ」


「陛下、羨ましそうに見るのはおやめくださいね」


 側近に注意されても、リリスの膝を取られたルシファーの視線は釘付けだった。後ろに回り込んだヤンがソファ代わりに丸くなると、「ありがとう」とお礼を言ったリリスが素直に毛皮に腰掛ける。薄水色のドレスを整えて座ると、ルシファーを手招いた。


「パパ、こっち」


 隣に腰掛けたルシファーの足元を、ピヨが駆け抜けていく。どうやらピヨはまだ母親にべったりらしい。ヤンの口元に蹲って頬ずりを始めた。鳳凰の年齢で考えるとまだ1~2歳前後、赤子同然のピヨの行動は当然だ。


 リリスに招かれて嬉しそうなルシファーが近づくと、ぽんと膝を叩いて促す。目を輝かせたルシファーがいそいそと膝の上に頭を乗せた。いわゆる膝枕だ。


「……おやおや」


 呆れたとアスタロトが溜め息をついて立ち上がり、顔を見合わせたルーサルカ達も微笑んで後に従う。ピヨの近くで羽を休める鳳凰は寝たふりを始めた。アデーレも手早く食器を片づけてその場を離れる。残されたのは、ソファ代わりのヤンと鳳凰達だけ。


 目を閉じた無防備なルシファーの頭を膝に乗せると、どこか心地いい重さだ。リリスは頬を緩めてルシファーの純白の髪を手で梳いた。長い髪は不思議と絡むことがなくて、いつもさらさらと手触りが良い。見上げた空は天気が良くて、この後のダンスのレッスンを休んでしまいたくなる。


 きっとサボっても怒らないだろうけど……もっと上手になって一緒に踊りたいのだ。しばらくルシファーの顔を堪能したリリスは、ふわりと笑って声をかけた。


「パパ、ここまでね」

「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く