魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

313. 幼女は5年で少女になる

 人族が魔族により攻め滅ぼされかけて5年の月日が経った。


 かろうじて逃げ延びた少数の人々からもたらされた情報をもとに、地方に複数の王国が発生する事態となった。魔王に逆らって滅ぼされた前王家の直系を戴くミヒャール国、王弟が興した公爵家を頂点とするガブリエラ国、そしてどちらにも属さないタブリス国だ。


 ただでさえ少なくなった人口をかき集め互いをけん制しあうおかげで、魔族は平和そのものだった。人族に、他種族を構っている余裕がないという現実は、魔王とその周辺にも平穏をもたらしていたのだ。


「かなり完成に近づいたな」


 魔王城の修復改築工事は、地脈の豊かな魔力により驚くべき早さで進められた。お菓子を手作りするリリス達の応援も大きかったらしく、ドワーフやエルフが必要以上に張り切った結果だ。数万年惰性で使い続けた建物はあれこれ改良された結果、美しく輝く魔王城として9割ほど蘇った。


「ええ、あとは奥の部屋ですが……普段は使わない部屋ですから問題ないでしょう」


 執務関係や大広間、魔王の居室などはすでに改築を終えている。残った場所は来客の滞在用居室や外庭と呼ばれ、掃除の使用人が入るくらいだ。普段はまったく使われない部屋や庭だった。


 平面図を見ながら、出来栄えをチェックしていくルシファーの後ろで、アスタロトは淡々と日程表を読み上げる。


「来年にはすべての部屋が完成します。完成まで10年ほど見込んでいましたので、3年の短縮ですね」


「ドワーフへの報酬は弾んでやれよ」


「ええ。もちろんです」


 にっこり笑って保証した側近の表情に、ルシファーは嫌な予感がして顔を上げた。昨年は足りない予算を個人資産から引き出されたりしたが……今回も同様の手口を使うのか。大公4人による承認書類は、魔王の決裁書類と同等の威力を発揮する。


「……オレの金じゃないよな?」


 金に固執する気はないが、リリスを拾うまで増える一方だった資産が、徐々に目減りしていた。彼女に投資したり、プレゼントした分は構わない。しかし明らかに違う、公共事業の事故補償金に魔王の個人資産をつぎ込むのはおかしいと思う今日この頃。


「一昨年から税収が上がっていますし、補助予算が余っていますからね」


「そうか」


 ほっとしたルシファーはそれ以上追及しなかった。アスタロトは税収が上がり補助予算が余っていると明言したが、裏を返せば個人資産を引き出さない約束も返事もしていない。そもそも一昨年から税収が上がっているのに、ルシファーの個人資産が昨年引き出されたのは明らかにおかしい。


 こういった駆け引きこそ、外交を担当するアスタロトの本領発揮だった。そして、この外交能力は意外な人物に受け継がれている――魔王溺愛の妃候補リリス姫である。


「パパ!」


 ひらひらしたドレスで駆け寄ってきたのは、噂の妃候補リリスだ。今日はダンスの練習があるため、普段より飾りの多いドレスを着ていた。淡い水色のドレスは美しい雪模様が銀糸で刺繍され、艶のある生地は女郎蜘蛛アラクネが丹精込めて紡いだ最高級品だ。


「これはこれは、可愛いお姫様のお越しだ。今日も綺麗だね、リリス」


 さっきまで一緒だったでしょう……呆れたと顔に示したアスタロトを無視し、近づいたリリスの黒髪にキスを落とす。緩やかにハーフアップにした黒髪は、白い薔薇が飾られていた。後ろに専属護衛騎士であるサタナキア公爵令嬢イポスを従えた美少女は、ご機嫌でルシファーの腕に飛び込む。


 5年で成長したリリスも11歳になり、レディとしての礼儀作法を身につけた淑女になった……………と言いたいが、多少事情がある。


 幼少時から愛らしい顔立ちだが、美少女という表現が似合う整った容姿で笑顔を振りまく。基本的に愛されて褒められて育ったため、性格はまっすぐで素直だった。他者を気遣う優しさを備え、傲慢に他種族を見下すこともない。


 礼儀作法もしっかり身につけ、意外にも本を読むことが好きだった。ルシファーが魔王位に就いてからの歴史を記した8001巻 (現在も絶賛追加発行中)は、すべて読み終えている。日々増えるページを読むのが彼女の日課でもあった。


 一見すると才色兼備さいしょくけんびのお嬢様なのだが、何しろ好戦的なのだ。有り余る魔力に物を言わせ、護衛騎士を振り切る勢いで狩りに飛び出す姿は、深窓のご令嬢にはほど遠かった。


「「「「魔王陛下、大公閣下にはご機嫌麗しゅう」」」」


「楽にしていいぞ」


 カーテシーを披露する4人のお取り巻きに許しを与えてから、ルシファーは愛しい愛娘の手を取る。指を絡めて繋いだ手は白く柔らかい。決して武器を持たせないルシファーの方針で、リリスの手は剣や弓で傷ついたことはなかった。


「このあと一緒にお茶をしたいの。パパはお時間ある?」

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