魔王様、溺愛しすぎです!
277. 世界樹を召喚!?
気後れしているシトリーを庇う姿勢は、アスタロトから見て好ましい。主はもちろん同僚に至るまで、他人に目を配れる存在は貴重だからだ。
「ルカは何やるのぉ?」
空気が抜けると、周囲の緊張感も抜ける。録音し続けるルシファーの手を握ったリリスが、興奮して手をぶんぶん振った。嬉しそうに手を振ったり回すルシファーに、威厳は欠片も残っていなかった。エルフ達は微笑ましそうに見ている。
可愛らしいリリスはもちろんだが、彼女を育て始めてからの魔王は穏やかで優しい面を多く見せていた。それが今までより親しみやすいと人気急上昇中なのだ。
「私はあまり派手ではありません」
前置きしてから、ルーサルカは集中するために目を閉じた。半獣人系なので、土に親和性が高い魔力を持っている。何をするのか期待に目を輝かせるリリスの足元に、ぽこんと芽が出た。
「植物も操るのか」
魔力を読んだルシファーが感心する。土属性であっても、植物と相性が悪い者もいるのだ。ゴーレムがその一例で、彼らは岩や石に対しては魔力が通せるのに、植物には嫌われる。エルフは風や水の魔力をもつ者が多いのに、植物に強かった。つまり属性と植物との相性に関連性は薄いのだ。
「これ、お花咲く?」
しゃがんで植物の芽を見つめるリリスが、こてりと首を傾けた。つないだ手を引っ張られて屈んだルシファーが口元を押さえて「可愛い」と呟く。鼻血が出そう……と赤い顔でリリスから目を逸らそうとした。しかし、すぐにまたリリスに微笑みを向ける。
「お花咲くといいな」
同意したルシファーの前にも新しい芽が出てくる。いくつも周囲に芽が出るのを見て、リリスがはしゃいで声をあげた。
「ルカはたくさん、緑なの」
魔力の色を読んだリリスの足元に、白い花が咲いた。周囲に赤と白の花がたくさん開き、続いてルーサルカが絞り出した魔力が円を作り出す。魔法陣の勉強も始めているのだろう、簡単な召喚魔法のようだった。
円の中央に、大きな木が出現する。しかし本来は巨木本体が召喚される魔法陣も、魔力の不足で幻影を投影するのが精いっぱいだった。
「世界樹か」
意思を持ち、世界の半分を識る長寿の樹木だ。自ら移動することはないが、召喚魔法で移植が可能だと聞いたことがあった。今回のルーサルカの魔法で召喚できたのは、葉や枝の一部と木陰だけだ。それでも十分すぎる成果だった。
エルフ達が手を取り合って大騒ぎしている。巨木は幻影にも関わらず、中庭に日陰を作り出し、ゆさゆさと葉を揺らした。数本の枝と葉を落としたユグドラシルは姿を消す。薄くなって消えた円の前で、肩で息をするルーサルカが膝をついていた。
「魔力を使いすぎたか?」
青ざめた彼女に眉をひそめたルシファーが手を出すより早く、駆け寄ったアデーレが魔法陣を展開した。己の魔力を分け与える魔術は、吸血系の種族が得意とする。養女として引き取ったルーサルカの枯渇した魔力を補い、アデーレは一息ついた。
「無茶が過ぎるわ」
思わず侍女の立場を忘れ、義母の口調で叱る。慌てて取り繕うアデーレに「構わない」と声をかけ、ルシファーがリリスと一緒に歩み寄った。
「ふむ……魔力は戻ったが、もう少し補っておくか」
彼女は半分人の血を引くせいか、魔力の制御が不安定だった。魔族なら魔力を使い切る前に、本能的に魔力の放出をカットする。しかし彼女はその安全装置が働かないようだ。
「ルシファー様、何を……」
「制御機能をつけるだけだ」
魔法陣を手のひらに浮かび上がらせて、アスタロトとアデーレが読み取るのを待つ。魔法陣の機能を確認して彼らは頷いた。ルシファーがルーサルカに手を伸ばす。濃茶の髪をかき上げて、亜麻色の肌に手のひらを当てた。
「最後まで使い切ると命に関わるからな。強制的に制御するぞ」
本人に説明をすれば、ルーサルカは一度だけアデーレ達に目を向けた。頷く2人の様子に安心したのか、頷いて少し笑う。不安そうな彼女に微笑んで、ルシファーは魔法陣を発動させた。
ふわっとルーサルカの尻尾の毛が逆立つ。手の爪が獣のように尖った。鋭い爪と尻尾はすぐに収まり、ルーサルカは小さな声で礼を言う。
「パパ、ルカに何したの?! 勝手にぃダメよ!」
「ルーサルカが危なくないようにお呪いだ」
説明すると、瞬きしたリリスがルシファーと繋いでいない手を伸ばす。獣耳がないルーサルカの髪を撫でて、頬にも触れた。それからにっこり笑う。
「リリスも、お呪いした」
リリスが触れた場所が温かい。頬を緩めて「ありがとうございます」と告げたルーサルカに、リリスは彼女が生やした花を摘んで渡した。
「綺麗なお花を、ありがと」
さらに7本摘んで立ち上がる。ルシファーに白、アスタロトとアデーレに赤を渡す。心配して駆け寄った3人の少女達にも花を差し出した。
「シトリーは白ぉ、レライエは赤、ルーシアも白」
自分は赤い花を握りしめ、リリスは満面の笑みで「ぉ揃いだね」と笑った。
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