魔王様、溺愛しすぎです!
270. どうしてこうなった
「お茶の時間をお邪魔して申し訳ございません。偽者の件につきまして、足をお運びいただければ幸甚です」
大仰な言い回しで少女達を煙に巻くベールの態度に、どうやら複雑な状況だと察する。仕方ないと立ち上がろうとして、当然のように首に手を回すリリスを抱き上げた。
「陛下、リリス姫は……」
「当代勇者だぞ。問題ない」
けろりと言い切ったリリスバカ魔王は、彼女を離す気はないらしい。肩をすくめるアデーレの様子に、ベールも説得を諦めた。ここで無駄に時間をつぶしている場合ではない。
「わかりました。ではこちらへ」
「あの……」
「皆さんはこちらでお待ちくださいね」
どうしようか迷ったルーシアの声に、アデーレが笑顔で安全な執務室に残るよう伝えた。この部屋と謁見の大広間などは特殊な結界が刻まれている。魔王城が崩壊するような魔法が使われても、中にいる者を保護する結界が働くのだ。
前回の『魔王陛下の魔力暴走による魔王城大損壊事件 』(記録上の正式名称)を教訓に、逃げ遅れた魔族に被害が出ないようシェルターとしての役目で、地脈の魔力を使った結界を張った。他にもいくつか同様の機能を持たせた部屋が存在する。
「リリス様が赴かれるのに、私たちが安全な部屋にいるのも気が引けますわ」
シトリーの言い分ももっともだ。ドアを開けながら、ルシファーが振り返って声をかけた。
「ついてきてもいいぞ。ヤンを中心に結界を張るから、その中にいればいい」
許可が出たと喜ぶ少女達が廊下に出ると、大型犬サイズのヤンが尻尾を振って先導する。後ろに4人の側近少女が続き、ゆったりした足取りでリリスを抱いたルシファーも歩き出した。
「アスタロトが対峙しておりますが、お早めに」
急かすベールの真意がわからない。人族風情に後れをとるようなアスタロトではないし、もしかしたら彼が片付ける前に駆け付けろという意味だろうか。ありえそうな話だと溜め息をつき、中庭へ着いたところで転移魔法陣を描いた。
ここから歩いても3分ほどかかる。幼い子供が一緒ならばもう少しかかるかもしれない。
「ヤン、皆も中に」
全員が乗ったのを確認すると、一瞬で転移した。
「うわぁ」
目の前の光景に、がっかり感が広がる。今までの自称勇者達は、少数精鋭方式だった。人族の実力からすれば選りすぐりの実力者と目される数人が、勇者を中心に攻め込んでくるパターンだ。しかし今回は数百の軍勢だった。しかもすでにアスタロトが嬉々として、前庭を血で汚している。
「どうしてこうなった」
思わずぼやいたルシファーは城門の上で溜め息を吐く。その真似をしたリリスも「どーしてこーなった」と呟いた。可愛すぎて頬ずりしてしまう魔王の姿に、ベールが苦言を呈する。
「なんとかしてください」
「え? どうしてオレが」
面倒だと声に滲ませるルシファーは、眼下で楽しそうに人を狩る側近の姿に釘付けだった。
魔法を使わず、わざわざ剣で戦っている。後ろで残党狩りをしているベルゼビュートも、際どい黒ドレスに覆われていない肌を返り血で染めていた。どちらも憂さ晴らしを楽しんでいるのだから、放置が正解だと思うのだ。
「後ろの方でダークプレイスの住人が参戦しています」
獣人や吸血系種族がちらほら見えるが、参戦というよりイベント参加感覚らしい。特に危険はなさそうだった。ならばやはり放置で。そう考えるルシファーへ、ベールが作戦を変えた。
「リリス姫、陛下の戦う雄姿を見たくないですか? きっと格好いいでしょうね」
「見たい!」
「任せろ、余が出向けば一瞬だ」
種族で範囲指定して滅ぼしてくれる。殺る気満々で降り立とうとしたルシファーに、予想外の言葉が聞こえた。
「パパもおっきい鎌使うの? それとも剣?」
「「え?」」
わくわくしながら尋ねるリリスに悪気はない。単にベルゼビュートの槍とアスタロトの剣が見えたので、同じように武器を使うと認識した発言だった。この場を魔法で焼き払うなど綺麗に片づけて欲しかったベールは青ざめ、ルシファーは真剣に悩み始める。
「……鎌にしようかな」
アスタロトと同じ武器は芸がないか。思案しながら呟いたルシファーは、リリスに結界を重ね掛けした。
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