魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

262. 囚われの姫君は優雅にクッキーを焼く

「どうしてパパは来ないの?」


 常にルシファー同伴が当たり前だったリリスにとって、突然現れたアスタロトとアデーレの説明は理解できなかった。曰く「ルシファー様は仕事が忙しいので、お菓子を作ってお持ちしましょうね」は、リリスにとって日常だ。それでも隣にいて見守ってくれるのが当たり前だった。


「いつまでも陛下にべったりのでは困りますわ」


「リリス、赤ちゃんじゃないもん」


 ぷっと頬を膨らませて抗議するリリスへ、目の前でしゃがんで視線を合わせたアデーレが笑顔で「そうですわね」と同意する。奇しくも同じ時刻に、玉座の間でルシファーがそっくりの口調で「魔王やめるもん」を繰り出したタイミングだった。


「ルシファー様にお仕事があるように、リリス様もお勉強があります。陛下がお仕事をしている間は、リリス様もきちんとお勉強しましょうね」


「リリスだけ?」


「いいえ、お友達もご一緒ですよ」


「それなら頑張る」


 素直に頷く姿に、見守っていた4人の側近もほっとして笑みを浮かべる。基本的にリリスは受身だ。愛されて育った自覚もあるので、他者に対して攻撃的な態度を取らない。あれこれ理由を尋ねるが、納得すれば積極的に自分から動けるタイプだった。


 1ヶ月前から始めたお勉強も、ダンスや礼儀作法も、リリスは彼女なりにこなしている。特段器用ではないが、努力は怠らないあたりは教師となった魔族に好評だった。


「リリス様、もうすぐ粉が用意できます」


 料理長のイフリートが手馴れた様子で小麦粉を振っている。この作業を以前リリスに任せたところ、くしゃみをしてばら撒いたところに火種が引火し、粉塵爆発を起こした経験があった。


 アスタロトの休暇中だったので、お小遣いから修理費を捻出したルシファーが証拠隠滅を計った経緯もあり、調理室は元通り以上の機能を備えて復活している。ドワーフも胸を張る工事だった。


「バターと砂糖は混ぜました」


 手伝っていたルーシアに促され、専用の踏み台にのぼる。手を魔法で綺麗にしてもらい、渡された卵を割って入れる。すぐにシトリーが風の魔法で卵を攪拌した。混ぜ終えたところに、イフリートが小麦粉を足していく。


「もう一度さっくり混ぜたら、平らに広げて型抜きをしましょう」


 可愛い型抜きを大量に並べるアデーレの言葉に、リリスは目を輝かせた。星や三日月、葉っぱの形から始まって、動物の型抜きも沢山ある。


 生地作りを終えて棒で伸ばす作業は、ルーサルカが担当した。この5人の中で一番年長なので、身体が大きくて獣人特有の力強さもある。以前はおどおどしていた彼女も慣れたもので、平らにならした生地を作り終えると、リリスを支えて生地の前に移動させた。


「リリス様、型はどれにしますか?」


「うんとね~、パパにお星様あげるの」


 星型を選んで粉を塗してから抜いていく。隙間を作らないように端から星を散りばめて、途中からウサギとエルフ型にした。これは城で働くエルフ達にあげるらしい。続いてトンカチやスコップの型を選んで、ドワーフ分も作った。


 奇妙な型が多いのは、リリスの影響だ。彼女は作ったお菓子を立場に関係なく分け与える。ドワーフや護衛、エルフもその対象だった。最後に骨型でヤン用のクッキーを作って、満足そうに踏み台から下りた。


「焼くのは、イフリートに任せましょう」


 過保護な魔王の命令で、まだオーブンやコンロに触らせてもらえないリリスは頷く。


「わかった」


 クッキーの一部はジャムなどで飾られ、オーブンへ入れられた。焼いている間は時間が空くので、調理場の隣にある倉庫を改造した部屋に移動する。ソファが置かれただけの部屋で、アデーレは歴史を物語として編集し直したルキフェルお手製の本を読み聞かせた。


「……というわけで、ルシファー様が初代の魔王位に就任されました」


 まだ初歩なので、魔族統一時代から説明する。目を輝かせて物語を聞く5人は続きをせがんだ。調理場を窺うが、まだオーブンは稼働中だ。


「魔王位に就かれる前の陛下と戦われた3人の魔族は、それぞれに大公となっておられます。ベール様、ベルゼビュート様、アスタロト様です」


「ロキちゃんは?」


「ルキフェル様は1万歳前後ですので、後から大公の位を賜った方です」


「ふーん」


 リリスが声を上げたところに、イフリートが顔を覗かせた。


「クッキーが焼きあがりましたよ」

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