魔王様、溺愛しすぎです!
248. 誤解が誤解を生んだらしい
「さて、言い訳を聞いてやろう」
冷めた眼差しを向けるルシファーが、億劫そうに声をかける。その冷たい響きに鳳凰だけでなく、周囲のヤンや衛兵まで首を竦めて震えた。
魔王位についた頃のルシファーならば、笑みを浮かべて問答無用で鳳凰を殺したはずだ。しかし魔王という纏め役に就いて数千年すると、統治者『らしく』なった。叶えるかは別として望みを尋ね、相手の言い訳を聞いてやるようになったのだ。
昔に似た冷たい表情と声色で、闇の蔓が絡まって身動きできない鳳凰へ向き合った。以前と違うのは、首に手を絡ませた幼女の存在のみ。リリスが怖がるかと心配したアスタロトだが、彼女はうとうとと眠りかけている。
周囲を恐れさせ怯えさせる魔王の覇気も、リリスには意味を成さないようだ。アスタロトでさえ身が引き締まるのに、まったく意に介さないリリスは大物っぷりを発揮しつつ、首を揺らして眠りの船を漕ぐ。
『我は……ただ、奪われたモノを取り返しただけだ』
無言で先を促すルシファーだが、その右手はリリスの黒髪を撫でている。呼吸するように、当たり前に彼女を気遣った。しがみ付いて眠る幼女を引き寄せ、首筋に顔を埋めたリリスが楽になるよう抱き直す。
『青いヒナは、我が番だ……っ、先に卵を奪ったのは、そちらだろう!』
怒りに駆られた鳳凰の周囲が炎に包まれる。自らを核に炎を呼び起こした鳳凰の上に、冷たい氷の檻が被せられた。冷気に魔力を封じられた鳳凰は、再びぐったりと地面の魔法陣に身を伏せる。しかしその視線は鋭く、ルシファーを睨みつけていた。
「魔王陛下と魔王妃となられる姫への攻撃が、おまえの番の話ごときで許されるわけがないでしょう」
氷の檻を作り出したベールが、呆れ顔で歩み寄った。手を繋いだルキフェルも不機嫌そうに眉を寄せている。長いローブの裾を捌いて身を屈めて一礼する部下に、ルシファーはひとつ頷いた。
魔王城の中庭へ続く通路で行われる断罪に、エルフやドワーフは見ないフリで逃げ出した。万が一にもとばっちりで攻撃が当たったりしたら、治癒する間もなく消滅しかねない。
『我にとって番は、命を賭ける価値がある』
言いたいことを言い終えたのか、鳳凰は伏せて動かなくなった。アスタロトは包んだ結界を解除して、ピヨを開放する。
「ピ、ヨ……?」
明らかに倍ほどの大きさになった青い鳥の姿に、大喜びしかけたヤンが立ち止まる。困惑顔のフェンリルへ大型犬サイズの青い鶏が走った。そのまま勢いを殺さずに突進する。
「ママだ~」
叫んだ鳥の声に、ようやくヤンもピヨだと確信した。いきなりサイズが3~4倍になったので、驚きすぎて認識できていなかったヤンの鼻に、ピヨが激突する。羽を広げて抱きつく形になった青い鳥は、開いたヤンの大きな口に飛び込もうとした。
「むぐ……っ」
以前は飛び込んで遊べた口の中だが、さすがに大型犬サイズは無理だった。ぺっと吐き出した涎塗れのピヨは、ヤンの鼻先に頬ずりする。べたべたになると苦笑いしながらも、ヤンは無理やり引き剥がそうとしなかった。オスなのに母性が目覚めている。
驚きを露にこの光景を見つめる鳳凰がぼそっと呟いた。
『フェンリルに、襲われたのでは……ないのか?』
番である幼いヒナがフェンリルの口に入っていけば、食べられたと誤解したのも頷ける。最初の行動が番を守るための攻撃だったとしたら、この鳳凰を責めるのは可哀想な気がした。
もちろん、魔王への攻撃は別として。
食べられそうな番を助けた鳳凰にとって、火山は再生を促す清浄の地だ。そこへピヨを突き落したのは、番の成長を促す目的があったのかも知れない。結局、鳳凰は己の番のことしか考えなかったのだ。
「どうやら誤解が誤解を生んだ展開のようですね」
事情を大まかに掴んだアスタロトが溜め息を吐いた。正直、この魔王城で騒動を起こすのは魔王だけで足りていると、頭を抱えながら視線を向ける。魔法陣により闇の蔓で縛られた鳳凰は、逃げるのを諦めて地に伏せていた。
「陛下、鳳凰を解放して構いませんか?」
「……しかたあるまい」
反対だと首を横に振るベールへ手を掲げて留め、アスタロトへ合図を送った。すぐに魔法陣が解除され、闇の蔓も消える。自由になっても、折られた翼で羽ばたくことができない鳳凰は動かなかった。
「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
-
6
-
-
全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
-
14
-
-
S級魔法士は学院に入学する〜平穏な学院生活は諦めてます〜(仮)
-
3
-
-
ある化学者(ケミスト)転生〜無能錬金術師と罵られ、辞めろと言うから辞めたのに、今更戻れはもう遅い。記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です〜
-
4
-
-
最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
-
5
-
-
【旧版】自分の娘に生まれ変わった俺は、英雄から神へ成り上がる
-
32
-
-
ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
-
5
-
-
水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜
-
20
-
-
乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
-
15
-
-
《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。
-
2
-
-
パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~
-
5
-
-
夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
-
25
-
-
魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?
-
13
-
-
聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
-
6
-
-
冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ
-
57
-
-
悪役令嬢、職務放棄
-
10
-
-
ガチ百合ハーレム戦記
-
15
-
-
婚約破棄されたので帰国して遊びますね
-
10
-
-
婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪
-
9
-
-
世界を渡る少年
-
32
-
コメント