魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

228. 2人きりで視察に行こう!

 散々叱られたルシファーは、予定を繰り上げて視察に出かけることにした。リリスの側近達は住み込みになるため、準備に忙しい。その間に2人で視察旅行へ行けばいい。


 改築中の執務室は使えないし、魔王城全体が改築や増築で騒がしかった。


「というわけで、出かけてくる」


「遊びではありません、視察ですよ」


 念を押すベールの渋い顔に、神妙に頷いておく。外に出てしまえばこちらのもの、2人で買い食いも出来るし、街の散策も楽しいだろう。


「分かっている。視察の合間に街の様子をリリスに見せてやろうと思う」


「陛下。視察の合間に、です。遊びの合間に視察ではありませんからね」


 釘を刺す側近に、にっこり笑って頷いた。一番信用できないルシファーの表情に、後で誰かが様子を見に行く必要があると、ベールは確信する。


 大公は今回の視察に同行しない。ベールは魔物討伐に出た軍の統括、ルキフェルは呪詛ゾンビの研究中、ベルゼビュートは緩衝地帯に人族が入り込んでいないか見回りがあった。


 唯一仕事はないアスタロトだが、彼は吸血種族の変異種で一定の周期で深い眠りに落ちる。今回はそのタイミングと視察の時期が重なるため、外出を諦めた経緯があった。今日の見送りが終われば、アスタロトは自分の城に引き上げるだろう。


 一番早く動けそうなのは、自分かベルゼビュートだ。時間のやりくりを頭の中で計算しながら、ベールは機嫌のいい主君に溜め息をついた。


「お気をつけて」


 魔族は独立心が強い種族が多いこともあり、普段のまつりごとは各々の自治で足りる。種族間のトラブル解決や、大きな問題が魔王城に持ち込まれるのだ。そのため、定期的に調停係として魔王が視察に出向くのが習慣化していた。


 彼らに足を運ばせても、結局解決のためにルシファーが出向くことが多い。何より移動手段の問題があった。魔王や側近は転移魔法陣を使えるが、種族によって魔力が足りなかったり、属性の問題で転移が使えない者がいるのだ。


 結局効率を考えた結果、魔王が視察する形に落ち着いていた。現在は魔王にケンカを売る軽率な魔族もいないため、単独での視察も頻繁に行われる。


「パパ、飛んでいくの?」


「今回は近くだからね。それと、他に寄りたい場所もあるんだ」


「あ~んして、パパ」


 飴の小瓶から青い飴を取り出してルシファーの口に押し込み、自分も緑の飴を口に入れる。小瓶をポシェットにしまう。愛用の白いポシェットはふわふわした毛皮製だ。触り心地がいいとリリスがせがんだため、角がある兎の魔物から剥いだ毛皮を使った。


 今日のリリスは紺色のスカートと白いブラウスだ。フレア・スリーブのひらひらした袖がリリスのお気に入りだった。魚の尻尾に似ている袖から出た白い腕が、ルシファーの首に回される。


 準備完了だ。


 黒い翼を4枚広げた。


「行ってくる」


 見送りの大公達に手を振るリリスはご機嫌で、愛娘を抱いたルシファーはもっと機嫌がよかった。あっという間に姿を消したルシファーを見送った大公達は、それぞれに散っていく。


「ベール、僕が見てこようか?」


 さきほど念を押していたベールの様子から、視察をチェックする意思を感じ取ったルキフェルが首をかしげる。しかしベールは笑顔で首を横に振った。


「問題ありません。私が兵を労いに移動する途中で、陛下と合流しますから」


 転移魔法陣が使えるため、ルシファーの魔力を終点に指定する方法で後を追える。幾らでも追いかける方法はあるのだ。そう告げるベールの気遣いに、ルキフェルはにっこり笑った。


「僕も早く呪詛を調べて追う」


 一緒に町に遊びにいきたいルキフェルの願いに、ベールは「楽しみにしています」と答えて彼の水色の頭を撫でた。


 少し離れた位置で振り返ったアスタロトが「どっちもどっち」と呟く。深い眠りに落ちれば、主君の危機であっても気付けなくなる。その状況に不安が募るが、眠りの時期に逆らう術はなかった。


「何も起きなければいいのですが」


 自分の口をついた予言めいた一言に、アスタロトは眉をひそめた。

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