魔王様、溺愛しすぎです!
225. 魔王城は改築に忙しい
「ここからここまで、部屋をひとつに繋げてくれ」
簡単そうにとんでもない発言をした純白の魔王に、親方は溜め息をついて説明を始めた。
「こことここの壁を取ると、上の部屋が落ちてくる。危険だから認められない」
「ああ、なるほど。ドワーフの技術では無理か」
にっこり笑って納得したように呟くルシファーの一言で、彼らの職人魂に火がついた。危険だろうが無理だろうが、何とかしてみせる! 職人達は鼻息荒く、親方に詰め寄る。そこで密談が繰り広げられた結果、のんびり待つルシファーへ向き直った。
「ドワーフの技術は魔族最高水準だ! 安全で快適な部屋の改築を約束しよう」
「うむ。頼むぞ、諸君らの経験と技術に期待する」
もっともらしいことを言って彼らのやる気を引き出し、執務室を出た。今日からこの部屋は改築作業に入るため、書類はすべて私室へ運ばれる予定だ。リリスと4人の学友が快適に過ごせるように……という建前を掲げ、一緒の部屋で過ごす快適な時間を増やすべく努力した結果だった。
満足げに部屋を後にするルシファーが見えなくなると、ドワーフ達は真剣な顔で強度計算を始めた。間違っても崩れないよう、アーチ型の天井の導入を検討する。装飾を含めて案が固まると、親方号令の下にドワーフ達は動き出した。
リリスの側近達は、魔王城内に個室を与えられる。各部屋の準備は、それぞれの親や親族が立会いで急ピッチで進められていた。
最初に訪れたルーシアの部屋は、水色を基調とした落ち着いた色彩の壁紙が貼られた。持ち込まれた家具は白木が中心で、全体的に大人びた雰囲気だ。付き添った父親の説明では、実家の部屋に近い状態を再現したという。
家具は新調するか、自宅から持ち込むことも出来る。彼女は持ち込む方を選んだ。もし新調を選ぶと、魔王妃のお支度予算を申請すれば費用がかからない。優秀なアスタロトとベールが捻出した予算は、意外と潤沢だった。ルシファーの個人資産が財源なのは、側近達の秘密だ。
ルーシアは水の妖精族の侯爵家令嬢で、象牙色の肌に青い髪、大きな青い目が特徴の幼女だった。保育園でリリスと同じクラスだったので、年齢も同じだ。
「パパ、ルーシアちゃん」
お友達を見つけると嬉しそうに名を呼んで手を振る。すごく可愛い仕草なのだが、問題点がひとつ。
「リリス。側近は名前で呼び捨てるようにしなさい」
「どうして?」
子供は「どうして」「なぜ」の疑問を連発する生き物だが、質問されると苛立つより可愛さが先にたつ。いきなり否定したり拒否せず、理由をきく姿勢は評価に値した。もっとも、リリスは大して深く考えずに反射的に尋ねているようだが。
「オレもベールやアスタロトを名前だけで呼ぶだろう」
「うん」
「名前で呼んだほうが親しそうだろ」
リリスが理解しやすい説明を選んた。主従だからという本来の理由は、いずれ学んでいく間に覚えるだろう。今は彼女が納得する理由で構わない。
「じゃあ、リリスも名前で呼んでもらう!」
「……うーん、ちょっと違うな。リリス様になるぞ」
「親しくなれないじゃん」
まさかの揚げ足取りに、ルシファーは必死に頭を使う。執務の時の比ではないほど、本気で考えて結論を導きだした。もしアスタロトがいれば、「普段から必死で頑張ってほしいものですね」と嫌味のひとつも口にしただろう。
「アスタロトはオレを『ルシファー様』と呼ぶが、親しいじゃないか。問題はないぞ」
「そうなのかな」
素直なリリスが首をかしげる。言われた内容を考えながら、抱っこするルシファーの顔を見た。にっこり笑って待つパパの表情に、ほわっと笑顔になる。
「うん、パパが言うならそうする」
「よかった。リリスが分かってくれて嬉しいぞ」
ぐりぐりと頬を擦り寄せてから、額にキスをした。擽ったそうにしながらも笑うリリスが振り返ると、ぽかんとした顔で侯爵が見つめている。
「あ……失礼しました」
慌てて目をそらす侯爵の足元で、ルーシアはくすくす笑っていた。リリスと一緒にいる魔王は常に甘い父親なので、接する機会が多かったルーシアの方が免疫が出来ている。
「今日から『リリス様』って呼ぶわね」
「うん、よろしくね。ルーシア」
挨拶が終わると、隣の部屋に移動した。
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