魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

223. 勝ち取った休みは痛みで始まる

「無事に終わって、本当によかった」


 大きな毛玉に包まれながら、安堵の息をつく。腕の中でリリスは眠っていた。全力で遊んで疲れたらしいが、子供は毎回全力投球なので大変だ。他の子供は3日間ずつだが、リリスはぶっとうしで半月も全力で遊び倒した計算だった。


「お疲れ様でした。明日から視察が入っております」


 予定表を確認しながらスケジュールを告げるアスタロトに、毛玉の中から純白の魔王は否定を口にした。


「頼む、2日……最悪1日でいいから休ませろ」


「予想より書類処理が進みましたので、少し変更しておきましょう」


 前倒しで書類処理させたことをケロリと白状した側近は、予定表に何やら線を引いて書き直した。複製したスケジュールを小さなコウモリに変えて飛ばす。


「明日と明後日はお休みにしました。視察にはリリス嬢を同行なさいますか?」


「当然だ」


「かしこまりました。ではこの2日間で『姫の側近』を決めてくださいね」


「は?」


 休みって言ったじゃないか! そんな抗議の声を無視して、アスタロトは悠然と部屋を出て行った。ごそごそと毛玉が動き出し、くるんと尻尾でルシファーとリリスを包み込む。その尻尾をぽんぽん叩いてため息を吐いた。


「なあ……ヤン。オレって魔族の王のはずだよな?」


「確認されずとも、我が君が王でございますな」


「その割には扱いが酷い」


 ぼやいてヤンのふわふわした毛皮に沈む。長すぎる髪が覗いているが、リリスを抱っこしたルシファーは毛玉の奥へ身を隠した。明日は休みだし、このまま眠ってしまおうか。


 何やら夢を見ているらしいリリスの手が、緩められて握られる。繰り返される動きに誘われて、興味半分で緩んだ時に指を差し込んだ。きゅっと強く握ると、リリスは強く力を込めて離さない。


「うちの姫は可愛すぎる」


「我が君、姫はまだ子供ですぞ」


「誤解を招く言い方をするな」


 いかがわしいことを咎めるようなヤンの言葉に、緩んだ顔を引き締めて返答する。その間もリリスの手は緩まなかった。些細なことだが、どうしようもなく嬉しい。


 ここ半月は他種族の子供達にリリスの興味を奪われ、独占できなかった。リリス成分が不足したと駄々を捏ねたルシファーだが、仕事中はアスタロトとベールの厳しい監視から逃げられず我慢したのだ。今ぐらい堪能してもいいではないか。


 こんなに可愛いのだから。


 掴んだ指を引き寄せて胸元で抱く形になったリリスの黒髪に、いくつもキスを降らせる。こんなに可愛い娘が「大きくなったらパパのお嫁さんになる」なんて言ってくれて、立場上それが許されるなど最高すぎる。魔王として8万年苦労してきたご褒美か……。


 うとうとするルシファーは、リリスに指を預けたまま眠りについた。








「うぎゃぁあああああ!」


「……パパうるさい!」


「我が君、何ごとですか?!」


 夜中にルシファーの悲鳴で飛び起きたヤンは、巨大な身体で立ち上がる。毛玉の中で寝ていたルシファーが床に落ち、咄嗟にリリスを抱っこして守るが……本人は激痛に顔をしかめていた。転げ落ちて背中を打ったなんて間抜けな状況ではない。


 そこは腐っても魔王。有り余る魔力で常に結界を張っているので、物理的なケガはなかった。問題は結界を通過できる愛娘である。寝ていたリリスは握り締めたルシファーの指を、あり得ない方角に折ったのだ。そりゃもう見事に、べきっと顔をしかめるような音がした。


「りりすぅ」


 情けない声で離してほしいと告げるが、怒鳴ったリリスはまた眠ってしまった。気の毒そうな顔で見るヤンが「痛そうですな」と呟いて、また丸い毛玉になる。折り曲げた指を抱きこむリリスを起こす勇気がなくて、痛みを我慢しながらルシファーは毛玉の上に転がった。


 このまま治癒したら指が裏返しになってしまうので、激痛を耐えながらの解放待ちである。ここで無理やりリリスを起こして指を取り戻そうと考えないところが、ルシファーらしい。


 朝になって紫色になった指は解放されたが、夜の騒ぎをリリスがまったく覚えていなかったのは余談である。解放後にすぐ治癒魔法陣で治した指だが、夜中に騒いだルシファー達の声は衛兵経由で城の住人達の噂の元となった。


 曰く『仕事しすぎの陛下を休ませるために、指にケガを負わせたリリス姫が休みを勝ち取った』という真実とは程遠い噂だった。ちなみに側近達の必死の誘導がなければ『ヤンの上でコトに及ぼうとした陛下が噛まれた』などの不名誉な噂になっていた、かも知れない。

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