魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

217. 赤ちゃん扱いが効きました

 早朝から、城の中庭は大騒ぎだった。侍従や侍女が総出でお迎えに行ってしまったため、まず誰も起こしに来なかった。誰かが魔王と王妃候補を起こしに行くだろう……全員がそう考えていたらしい。


「リリス……寝坊したぞ」


「平気よ、パパ。リリスは可愛いもん」


 よく分からない理由だが、リリスは大丈夫だと思っているようだ。そして親バカ全開のルシファーも「そうだな」と同意してしまう始末。


 とりあえず見慣れた黒衣に指パッチンで一瞬のうちに着替え終わると、隣のクローゼットを開け放った。全体の15%は自分の服が並んでいるが、残りはすべてリリスの洋服やアクセサリーだ。見事にリリス用のクローゼットと化していた。


 何もおかしいと思わないルシファーは、ワンピースを1枚手にとって唸る。水色はやめよう。そろそろ夏も終わるので、少し濃い目の色がいい。しかしワインや紺では色が強すぎた。リリスは黒髪なので、全体に薄い色が似合うのだ。


「こっちを着る」


 自分で選んだ幼女は、鮮やかなオレンジ色のワンピースを引っ張り出す。ノースリーブで、明らかに盛夏用のデザインだが……こんな服を作らせただろうか。山吹色のレースがふんだんに揺れる服に首をかしげた。


「こんなの、あったっけ?」


 絶対にルシファーが選ばない色だ。


「ベルゼ姉さんがくれた」


「……なるほど」


 原色の服が好きな彼女からもらったなら、確かに原色系の鮮やかな色彩だろう。他にもちらほらと彼女が紛れ込ませたらしい原色のワンピースが覗いていた。近いうちに処分しようと決めたルシファーだが、今日はリリスが選んでしまったので、そのワンピースに似合いそうな上着と髪飾りを探し始める。


 オレンジや黄色に黒髪は引き立てあい過ぎる。今日は黒髪をすべて頭の上に結ってしまい、濃い目のリボンで飾るのがベストだ。オレンジの面積を減らすために白いボレロを合わせ、上品さを演出しながら、黒髪との間に色のクッションをおいた。


「可愛い髪形にしような」


「うん」


 無邪気に頷くリリスが小さな鏡台の前に座る。手早くお団子を作り、左右に残した髪を三つ編みにしてからお団子を巻くようにピンで留めた。最後に紺色の髪飾りを上に乗せて固定すれば、終わりである。子供なので崩れないように魔法陣も忘れずに付帯しておいた。


「よし! 今日も可愛いぞ、きっと一番だ」


「本当?」


「オレはリリスに嘘なんて言わない! 惚れ直したな、オレのお姫様」


「……いつまでも来ないと思ったら、何をしているんですか」


 頬や額にキスを降らせているところに、冷たい声が投げられた。入り口で足を止めたアスタロトが呆れ顔で首を横に振る。なんだ、その失礼な態度は……まるで手が付けられないバカを相手にするような表情に、ちょっとルシファーの機嫌が下がった。


「お迎えに上がりました。各種族選出のお嬢様方は、もう大広間に集まっておりますよ」


「それを早く言え」


 反射的にリリスを抱っこして歩き出すが、後ろからアスタロトに注意された。


「陛下、リリス姫と手を繋いでご入場ください。抱いて入ってはなりません」


「なぜだ?」


「どうして?」


 リリスと被ったルシファーの頬が緩む。


「リリス姫、他の子はみんな歩いていますよ。あなた様だけ抱っこなんて、赤ちゃんみたいですね」


 にっこり笑いながら嫌味を混ぜて言い聞かされ、リリスはルシファーの腕をぱちんと叩いた。下りると足をばたばたさせて暴れる。しかたなく下ろすと、満足そうに手を繋がれた。しかしルシファーは不満しかない。


 リリスを抱っこして移動できる時間は短いのだ。あと数年しかないと考えるルシファーにとって、僅かな時間でも抱っこしていたい。


「陛下、子供じゃないんですから……きっちり親としての役目を果たしてください」


「分かってる!」


 むっとして言い返しながら、手を繋いだリリスに引っ張られる形で歩き出した。音階やらリズムが多少ずれた微妙な鼻歌のリリスに、「うちのリリスは多才で可愛い」とデレまくる魔王。その数歩後ろで、眉をひそめたアスタロトは「早く音楽の先生も手配しないと」と候補を選び始めていた。

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