魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

207. ゾンビの出口らしき洞窟がありました

 舞い降りた場所は森の木がなく開けている。庭の一部扱いなので、エルフ達の管轄として手入れがされているのだろう。それでも蔦が木々を這い、少し薄暗い感じがする。


「方角はどっちだ?」


「あっち」


 リリスはやや左側の木を指差した。ルシファーの目には魔の森の一部にしか見えず、特に異常は感じられない。隣をみると、ルキフェルも不思議そうな顔をしていた。どうやら彼も感じないらしい。


「あのね、大きな穴が開いてるの! そこが変な色してるよ」


 リリスの表現する言葉はまだ多くない。そのため彼女の言う『へんな色』が何色を示すのか、またどのような状態を意味しているかわからなかった。だが異常を感じているのは確かだろう。


「変な色の場所で遊びたい?」


「やだ。ばっちいもん」


 どうやら変な色は汚い色と置き換えることが出来そうだ。相槌を打って、リリスが示した方角へ歩き出す。徐々に腐肉の臭いが漂いだした。顔をしかめたルシファーが、3人まとめて結界で包む。


「酷い臭いだったな」


「ゾンビの臭いだ」


 ルキフェルが顔をしかめながら呟く。可愛い鼻を摘むリリスの仕草に悶えていたルシファーは、一瞬反応が遅れた。しかし何とか取り繕う。


「そうだな……リリス、この先か?」


「ばっちいとこいくの?」


「綺麗にしないと遊べないだろう? この森もお城のお庭だぞ」


「広いね」


 目を見開いて驚く幼女は、鼻を摘んでいた手を離して周囲を見回す。それから進行方向より少し右側を指差した。


「あの先に、ばっちいのがある」


「……リリスは便利」


 ぼそっとルキフェルが指摘する。見えない瘴気の出所を指摘しているようなので、確かにすごく優秀で便利だ。否定できずに苦笑いしたルシファーだったが、さすがに2人とも距離が近づくと違和感を覚えた。


 まず最初に、蜘蛛の巣に引っかかったような気持ち悪さが襲う。なんらかの結界が張られていたらしく、境界線を越える感覚が肌に残った。外から見れば魔の森がそのまま繋がっている景色に見えるのに、その境界線を越えた途端に風景は一変する。


 立ち並ぶ木々はよじれて葉が変色し、足元の草は萎れていた。臭いは遮断しているが、きっと腐臭が酷いだろう。どうして管理しているエルフが気付かなかったのか、不思議だったが……境界線を越えていなかったら、彼女や彼らに気付く術はない。


 森の木々が突然開ける。そこに、ぎりぎり通れる大きさの洞窟があった。小さな丘状態に盛り上がった土の穴は、周囲に腐肉が散乱している。そして死んだ魔物が複数倒れていた。どうやらここがゾンビの出口で間違いなさそうだ。


「……ルシファー、もしかして」


「オレだって嫌だが、どう見てもこの先がゾンビ製造現場だと思うぞ」


 ここまできて帰るという選択肢はない。しかし踏み込みたいかと尋ねられれば、全力で辞退を申し出る状況だった。


「万能結界でどこまで防げるだろう」


 ルシファーが顔をしかめる。それは攻撃に対しての不安ではなかった。ゾンビの腐肉がもつ病原菌や呪詛、臭い、感触……すべてを総括しての不安だ。いくら臭いや病原菌を遮断しても、上から落ちた腐肉のべっちょりした感覚が首筋を襲ったら、この森全体を吹き飛ばす自信があった。


 アスタロトあたりが聞いたら「迷惑な自信ですね」と一刀両断されること請け合いだ。それでもルキフェルに「行って調べて来い」と命じないのが、ルシファーらしい。


「よし。万能結界を3重にして包んだリリスを任せる!」


 突入の覚悟を決めたルシファーが、リリスをそっと地面に下ろした。危険がないよう、彼女の髪飾りに物理も臭いも魔法もすべて防ぐ魔法陣を貼り付ける。膝をついたルシファーが、ルキフェルとリリスの手を繋がせた。


「いいか、リリス。ここでルキフェルと待っててくれ」


「どうして?」


「オレはあの穴を調べてくる。(おもに腐肉落下が)危険だから、ルキフェルと一緒にいるんだぞ」


「わかった。ロキちゃんといる」


 後にルシファーは、この時の己のセリフを悔やむことになる。どうしてもっと、具体的に言い聞かせなかったのか。得てして、後悔とは後ろについてくると思い知る破目になった。

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