魔王様、溺愛しすぎです!
205. 城門前は大惨事!
溜め息をついて立ち上がるルシファーに、リリスは首に手を回して抱き着いた。離れる気はなさそうで、置いていく気がないルシファーは当然のように引き寄せる。
「前回は浄化しか効かなかったのでしたか」
アスタロトはまた出番がなさそうだ。浄化の魔法陣を扱えば自分自身が危険な彼は、別の方法で貢献してもらうしかあるまい。
すたすた歩きながら、中庭を抜けて城門の上に転移した。
城門前の丘はまたもや腐った魔物たちに覆われている。見慣れたくないが、2度目の光景となれば諦めが先にたつ。やっと綺麗な丘に戻したばかりなのに……また汚れてしまう。
火に耐性がある変異種のゾンビは呪詛がかかっているため、退治した場所に呪詛が残る。浄化するのも手間がかかるし、しばらく草木が生えてこない弊害もあった。エルフ達に頼んで、ようやく元の美しい草原に戻したというのに、これではキリがない。
「パパぁ……また臭いの来た!」
指差したリリスは、言葉が終わると鼻を摘む。慌てて臭いを遮断する魔法陣を描いて、城門全体を包み込んだ。後ろを振り向けば、やっぱりベールやルキフェルを含め、衛兵まで鼻を摘んでいた。息を止められるアスタロトだけが平然としている。
「浄化の魔法陣を数種類まぜたら効果が高かったはずだ」
撃退した際の記憶を呼び起こしながら、ふと見ると……城門へ向かって逃げてくる城下町ダークプレイスの住人がいた。どうやら街の外で作業をしていて追われたらしい。
「アスタロトは住人の救出と守り。ベルゼビュートは最前線で防衛、オレが浄化の魔法陣で消し去る。後片付けをベールとルキフェルに任せていいか?」
「「「仰せのままに」」」
賛同が得られたので、作戦に問題はなさそうだ。ルシファーは満足げに頷くと、左右に魔法陣を展開しようとして動きを止めた。
「リリス、何をしてるんだ?」
「うんとね……パパの真似」
見様見真似で魔法陣もどきを作っている。あやとり遊びのように、手元で未完成の魔法陣をこねくりまわして首をかしげた。将来有望すぎる娘の可愛い仕草に、ぎゅっと抱き締めた。
「なんだろう、こんなに可愛くて……天使すぎてつらい」
愛情垂れ流しの呟きに、リリスは「パパも可愛い」とよく分からない返事をする。ついでに近づけた頭を小さな手で撫でられた。
「可愛いなぁ……」
「陛下、お取り込み中ですが……魔法陣をお願いします」
すでに側近のアスタロトは住人回収を行うために城門の入り口に移動しており、残された唯一の良心であるベールが呆れ顔でゾンビを指し示す。ただれた全身は腐り始めて、ぼたぼたと身体の一部を落としながら歩いてくるゾンビの姿に、大きな溜め息が漏れた。
可愛い天使を見た後だと、余計に醜く思える。
「わかった」
右手に作り出した魔法陣をゾンビの足元に転送する。浄化作用が多少異なる魔法陣を続けて3つほど送ると、ゾンビの数は半減した。城門の入り口に確保された住人達から「魔王様、万歳」の声が聞こえてくる。
うん、気分がいい。
あと数発で片付くと見当をつけ、新たな魔法陣を右手に呼び出した。直後、魔法陣が奪われる。
「ん?」
消えたのではなく、奪われたのだ。奇妙な感覚に視線をおろすと、可愛いリリスが魔法陣を両手で抱えていた。魔力の質が近いので、リリスが意図することなく掴んだのだろう。輝く魔法陣をきらきらした眼差しで見つめるリリスに、手を差し出しながら声をかけた。
「リリス、危険だから返し………っ!?」
「綺麗な花火にするの!」
宣言したリリスが何か改変した魔法陣が放り投げられる。読み取る暇もなく飛んでいった魔法陣がゾンビの下に固定された。
「逃げろっ!!」
叫んだルシファーの声に反応したアスタロトが、住民を守る結界を張る。その手前でゾンビに相対していたベルゼビュートが転移で城門まで逃げた。
その直後……ゾンビは派手に爆発して飛び散った。
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