魔王様、溺愛しすぎです!
197. 幼女の説明は擬音と手振り
伐られた木が生えてくるには、シルフの魔力が奪われてしまう。魔力を高めて放つと、あっという間に森が吸収した。よほど魔力に飢えていたのだろう。吸収した魔力を糧に、切り株から太い木が生えてきた。
小さな芽が出て大きく育つのではなく、元の形の木が突然出現する。魔王が森に食わせた魔力が質も量も豊富だったためだ。通常は成長の過程を追う形で木々は元の姿に戻る。
「これでよし」
多少怠いが、魔力が足りない状態でもない。腕の中でリリスは手を叩いて喜んでいた。
「すごぉいね! 木がぎゅんっ!って伸びた。ぎゅんって」
擬音と伸び上がる手の動きで表現するリリスに、周囲のシルフ達は微笑ましげな目をむける。妖精族は滅多に子供が生まれないため、こうして幼子に接する機会は少ないのだ。
「ありがとうございます、魔王様」
「構わないさ、今は余ってる魔力だ」
使えなかった頃の不便さを思い出しながら、肩を竦めて礼を受け取る。魔力を注がれた木々は艶やかな緑の葉を揺らして、涼しげな音を立てた。まるで礼を奏でているようだ。
木漏れ日が心地よいのか、昨夜からあまり寝ていない影響か。リリスがひとつ欠伸をした。
「眠いなら寝てていいぞ」
黒髪を撫でて眠るように促すと、目元を擦りながらリリスが首を横に振る。イヤイヤをする仕草を見守れば、不満そうに尖らせた唇が予想外の言葉を吐いた。
「アシュタもパパもお仕事だもん。リリスだけ寝るの、だめ」
驚いたルシファーだが、すぐに頬を緩めて黒髪にキスを落とした。気付いて顔を上げたリリスの頬や額にも、次々とキスをする。
「……んっ、パパ! もうっ!」
宥められたと勘違いしたリリスが、ルシファーの髪を引っ張る。見ていたシルフが息を飲んだ。魔王の髪に勝手に触れ、ましてや引っ張るなどシルフにとっては暴挙だった。しかしリリスは昔から当たり前の普段の行動でしかない。
「ごめん、誤魔化したんじゃないぞ。リリスが可愛いからつい、ね。アスタロトをお迎えに行って帰ろうか」
ぱちりと目を瞬かせて、リリスはにっこり笑った。この子は本当に笑顔が似合うし、笑顔が多いと満足げにルシファーはリリスの返事を待つ。
「うん、アシュタをお迎えに行って帰る。そんでヤンと寝る!」
「え? オレは一緒じゃないの?」
「じゃあ、パパと一緒にヤンの上で寝る」
フェンリルを布団扱いする幼女に、シルフ達は苦笑いした。規格外なのは魔王の養い子の特徴だし、魔王妃候補である以上、仕方ないのかもしれない。そんな認識が広がった。
「また人族がきたら、すぐに連絡しろ。連絡用の魔法陣を預ける」
フェンリルやラミアは念話を使うし、リザードマンは他種族を利用した伝達手段を持っている。エルフも独自の連絡網があるので、今回の被害者達の中で連絡がとりづらいのはシルフだった。
魔法陣を直接受け渡して記憶させ、ルシファーは無造作に手を伸ばした。すでに数千年を生きる長の頭を軽く撫でて、表情を和らげる。
「いいか、遠慮はするな。魔の森の異常を一番早く感知できるのは、それぞれの妖精族だ。敵を排除するのはオレ達の役目だし、少しでもおかしな現象があれば連絡をしろ」
「はい、感謝いたします」
シルフ達の見送りにリリスと手を振って、アスタロトの魔力を目指して転移した。
出現した上空で、黒い翼を4枚広げて溜め息をつく。
「パパ、アシュタが真っ赤!」
「……そう、だな」
ある程度予想はしていた。人族の拠点を見つけたら排除しろと命令された彼が、見つけた人族に手加減するはずがない。魔族にすら冷酷な殺戮魔だと知られるアスタロトは、元の色が分からぬほど真っ赤に返り血を浴びていた。
「もうすぐ終わると思うから、ここで待ってようか」
惨劇の館と化した人族の拠点に娘を近づけたくなくて、遠まわしに待機を提案する。リリスはじっと下を見た後、一箇所を指差した。
「あの部屋だけ青い」
「青い?」
指差された場所を見るが、小さな物置のような小屋があるだけだ。屋根は赤く壁は白いので、青い要素がない。ならば彼女の指摘した色は『魔力の色』だろう。
目を凝らすと、確かに魔力が溜まっていた。魔力が弱すぎて、ルシファーの意識に引っかからなかったのだ。しかし集中して確かめると、人族の魔力ではなかった。
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