魔王様、溺愛しすぎです!
186. リリスなりの指摘とお勉強
到着した場所は、リザードマンの領地の一番外側だった。ずっと沼や畦のような土地が並ぶ地区は、他にカエル型の魔物や頭が沢山ある蛇ヒュドラが住んでいる。魔の森で一番大きな沼地なので、リザードマン以外にも多くの種族が同居していた。
取り纏め役として、一番行動半径が広いリザードマンが統治しているだけだ。
「この辺りは毒カエルが多い沼なのですが……人族が彼らを追い立てたらしく、我らの島まで助けを求めに来たのです」
「確かに荒らされてるな」
見回した先は四角く区画が作られ、美しかった自然の沼の形は跡形もなかった。まるで人族の領域にある田んぼのようだ。何かを植えた時に水の流れを変更したため、沼地の一部が枯れてひび割れていた。
「人族は定期的に来るのか?」
「はい。3日に1度くらいですが、近くに村を作られていました」
「被害者は?」
「毒のある赤カエルが15匹ほど捕獲されたようですが、それ以上は把握しておりません」
預った領土を守れなかったと肩を落としながら説明するボティスに、ルシファーは何でもないことのように軽い口調で解決策を提示した。
「簡単だ。まずこの場所を元の沼地に近い状態へ戻す。それから村はオレが排除しておこう。しばらく人族が近づけぬよう、多少手荒い方法を取るが仕方あるまい。捕獲されたカエル達が生きていれば沼に戻せばよい」
リリスは時々手を伸ばしてボティスの肩や腕に触れている。さきほど小さな声で許可を得ていたので、好きにさせた。手触りが気に入ったのだろうか。
「リリス、魔法使うぞ」
気を引くために声をかければ、赤い瞳を大きく見開いて手を叩いた。嬉しそうな娘の顔を見ながら、ちょうどいいので王妃教育の一環として彼女に意見を聞く。
「この沼の状態をどう思う?」
「……さっき来たとこと違う」
「そうだな。ボティスの住んでいた島の周りが、本来の沼の状態だ。これは人族がボティス達に断りなく、勝手に弄くってしまったんだよ」
情報を与えて様子を見る。まだ5歳の子供には難しいだろうか。ときどき驚くほど賢い発言をするリリスだが、基本はまだ生まれて5年の経験しかない幼児だ。唸りながら首をかしげて、ぽんと手を打った。
「勝手にしたらいけないのよ! アシュタが言ってた」
「……アスタロトが、ね」
複雑な気持ちが声に滲んでしまった。なんだろう、ここでパパの名前を出して欲しかったとか、思ってないんだからね。こっそり拗ねるルシファーだが、リリスはぐるりと見回した沼の区画を指差した。
「あそこ変な感じ。お水は四角いとこダメなの、ルーシアも丸いお水だもん」
両手で丸い円を作ったリリスが必死に説明する。
理解しづらい表現が続くが、どうやら四角い区画は不自然だと指摘したようだ。ルーシアは水の妖精族の貴族令嬢だから、自然の流れについて聞いたことがあるのか。
四角い区画は水の流れが淀む部分が出来る。その淀みはいずれ、土地の淀みとなって凝ってしまう。その危険性を「変な感じ」として受け取ったリリスに、ルシファーは「よく出来た」と頭を撫でた。
「変な感じがするところを、魔法で直してもいいか?」
「うん」
広げた1対の翼に、もう1対追加して4枚広げる。はしゃいで手を叩くリリスが「すごい」と連呼した。いいところを見せたくて、いつもより奮発するルシファーが魔力を高める。
ひらりと手を振った先が、次々と決壊していく。作られた人工的な区画をすべて潰し、泥をかき混ぜて新しい沼地を広げた。植えられた植物は申し訳ないが処分する。元からこの地域に存在しない植物ならば、環境を壊す原因となるからだ。
抜いた植物を燃やして処分し、灰も泥の中に混ぜ込んだ。見上げるドラゴンほどの高さまで泥を持ち上げて、淀んだ水と泥を浄化する。上から落ちる泥を掬いあげたボティスが感激して、泥の中に飛び込んだ。
「あ、鱗の人溺れちゃう」
「平気だよ。彼らは泥と一緒に生きてる種族だからね」
言葉通りすぐに顔を出したボティスの笑顔に、リリスはご機嫌で手を振った。泥だらけで戻ってきたボティスが頭を下げる。
「ありがとうございました、これで……」
「礼は後だ。村を片付けてくる」
4枚の黒い翼を広げた魔王は、その称号に相応しい黒い笑みを浮かべた。
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