魔王様、溺愛しすぎです!
183. 全員分足りました
「よし、それならリリスは飴を配ればいい。飴の瓶に魔法をかけてやろう」
指先で弾くようにして瓶に触れる。一度だけ光った瓶は見た目に変化がなかった。しかしリリスはじっと瓶を見た後、嬉しそうに頬を緩ませる。魔力の糸が見えるベールとアスタロトは頬を緩めて見守った。
「パパの魔法は凄いんだから」
得意げにルシファーの膝を降りて、オレリアに赤い飴をあげる。後ろで膝をつくハイエルフ2人にも緑と青の飴を渡した。そのまま戻ってきて、ヤンの大きな口に黄色い飴を入れる。
「ピヨはどうしよう」
床に置いた飴をつつくピヨだが、さすがに丸呑みできるほど嘴が開かなかった。逆に丸呑みできたら窒息の危機だったかも知れない。
「私にお任せください」
歩み寄ったアスタロトが、ピヨ用のオレンジ色の飴を指先で砕いた。もちろん魔法による破砕だが、知らないと力業に見える。リリスは白い飴がひとつ残った瓶をからんと振った。
飴がひとつ増える。部屋に保管してある大きな瓶と繋いだ魔力の糸を通って、物が移動したのだ。ルシファーがよくタオルを浴室から引っ張り出した方法と同じだった。転移とは違う魔法なので、城内でも問題なく発動する。
「ありがと、アシュタ」
満面の笑みで、飴の欠片をつつくピヨを撫でる。それから瓶の中に手を入れて飴を出そうとして、リリスはアスタロトの顔を見上げた。何度かピヨやヤンに触れた手で食べ物に触れて叱られたのだ。
アスタロトに飴はあげたいが、渡す方法に迷う。
「アシュタ、自分でとって」
いい方法を思いついたと表情を明るくしたリリスが、両手で持ち上げた瓶からアスタロトが風の魔法を使って飴を取り出す。瓶に手を突っ込んでもいいのだが、見た目の問題だった。選んだのは白だ。
「ありがとうございます。リリス姫」
「うん……ベルちゃんも」
走って移動し、同じように飴を瓶ごと示した。走った間に数回揺れたので、飴が3つも転がっている。一番上にある青の飴を受け取ったベールは、リリスの頭を撫でた。
「リリス姫、ありがとうございます」
「ロキの分もよ」
飴が増えたので気前のいいリリスが、もうひとつ取るように促す。彼女は部屋の中の飴が減っている事実など気付いていないだろう。魔法で増えたと思っている可能性が高かった。
「ルキフェルも喜びます。お預かりして、後で一緒に頂きますね」
幼子の厚意を無駄に出来ないと、ベールは赤い飴も手に取った。両方一緒に紙に包んで保管する。嬉しそうなリリスが最後に戻ってきた玉座の前で、ルシファーに瓶を差し出した。
「パパもどうぞ」
「リリスは優しいな。パパは嬉しいぞ」
頬を緩めてリリスを撫で、最後に残る飴に手を伸ばしかけ、一度動きを止めた。
「リリス、瓶を振って」
からんと音がして飴が増える。2つになった飴を両方取り出したルシファーは、ピンクと緑の飴を手の上に並べた。
「どっちがいい?」
「パパが選ばなかったほう」
最初に選べと言うリリスだが、彼女の目はピンクの飴に釘付けである。どうやら彼女は大好きなピンクが欲しいらしい。子供らしく強請ってもいいのに、譲ろうとするリリスに頬を緩めて緑を選んだ。
「パパはこっちがいい」
「じゃあ、リリスはピンク!」
頬張ったリリスがご機嫌で瓶をポシェットにしまった。際限なく部屋の飴を引き寄せてしまわないよう、魔力の糸を切っておく。ほんわかした雰囲気の中、飴を口に入れたオレリアが思い出した。
「っ……へひは! はうらふへお(陛下! アルラウネを)」
「オレリア嬢、口の中に食べ物がある間に話してはいけませんよ」
しっかりお小言をもらったオレリアは顔を赤くして俯き、注意したアスタロトが苦笑いする。気持ちはわかるが、謁見の間は公的な場所だった。どうしても最低限の礼儀は守らなくてはならない。
「陛下自ら出向かれるのであれば、書類関係は我々が引き受けましょう。残りの謁見で緊急性が高いもの以外は、明日に持ち越しでよろしいですか?」
リリスが来る前からの案件をさらりと片付け、溜め息をついているベールにも同意を求めた。魔王の署名代わりに、ルキフェルも巻き添えにして3人は徹夜で書類をチェックする。溜め息をついたベールだが、他に解決方法が見つからなかった。
「そのように手配いたします」
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