魔王様、溺愛しすぎです!
179. 火元はあそこです
眉をひそめてルシファーに言いかけたアスタロトも、異常に気付いた。臨時で組まれた観客席もステージも、魔の森の木を伐採して作っている。つまり木製なのだ。それはそれはよく燃えるだろう……。
焦って火元を探すアスタロトの様子に、ベールもルキフェルと一緒に足元をチェックし始めた。臭いと僅かな熱だけだった床から、白い煙が立ち上る。同時にパチパチ爆ぜる音も大きくなった。
「火事?!」
ベルゼビュートが叫んだため、一斉に周囲の注目が集まる。
「転移を許可する! 魔王城の中庭に転移せよ。転移できる種族は、他の者を助けよ! 急げ、ステージに集まれ」
指示を出したルシファーが観客席を飛び降り、真っ先にリリスに駆け寄る。その姿に慌てた親達が動き出した。転移できる親は子供の前に現れると、近くの子供や親を連れて一緒に転移を始める。
「パパぁ……くさい」
「ごめん」
煙臭いのを省略されたため、自分が臭うと言われたようで気分が滅入る。ヤンが慰めるように鼻先を押し付けてきた。そっと彼の毛を撫でてやる。
数人の魔力が多い貴族は魔法陣を描き、その上に入る限りの親子を詰め込んで転移した。名前を覚えておいて後で褒めてやる必要があるな。ルシファーの意図を汲んだアスタロトが記憶していく。
「私も先生や裏方を連れて先に転移します」
ベルゼビュートが大きく腕を広げて魔法陣を展開し、裏方のドワーフやエルフを含めた先生達を包み込んだ。ふわっと光った直後に姿を消す。
「さて火元はどこだ?」
きょろきょろしているルシファーの袖を、ヤンが控えめに引っ張った。視線を向けると、何やら言いづらそうに目をそらす。しかし覚悟を決めたのか、お座りしたヤンが謝罪した。
「申し訳ございません。我が君、火元はあそこです」
ヤンが示した先は、彼がずっと座っていた場所だった。魔王用に準備された最前列席の足元……そこに燃え上がる火種がある。確かに最初に火事に気付いたのはルシファーなのだから、彼の足元が燃えている可能性が一番高かった。
「ピヨッ!」
血糊をつけたままの赤い口で叫んだリリスが指差した。すでに観客席に燃え移った火の中央で、小さなヒナが蹲っている。
「……このタイミングで再生しますか」
呆れ顔のアスタロトが溜め息をついた。鳳凰は自らの身を燃やして滅ぼし、その灰の中から生まれ出でる習性がある。それを『再生』という言葉で表現したのは、神龍の長老だった。
「ピヨが焼き鳥になっちゃう」
「大丈夫、ピヨは燃えても復活するから」
説明しながらリリスを抱き上げた。興奮したリリスがピヨに駆け寄るのを防ぐためだ。鳳凰の再生は高温になると聞いたので、万が一にも火傷したら大変だった。
「我々も転移します」
「わかった。逃げ遅れがいないか確認してくれ」
ベールとルキフェルが残る種族を連れて転移する。原因がわかったので、さほど心配はいらないが全員同じ場所に避難した方が安心できるだろう。見送ったルシファーと共に残ったのは、リリス、アスタロト、ヤン、ピヨのみだった。
「再生中の鳳凰に、水を掛けちゃダメだよな?」
「再生し終わるまで見守るしかないでしょうね」
消火してもいいのだが、不完全な再生になるとピヨの今後の成長に差し障る。だが放置したら、観客席もステージも全焼しそうだった。元が木材だから、どちらもよく燃える。
「ピヨはどうして燃えるの?」
「鳳凰って種族は燃えて、また生まれる。そうやって成長するんだよ。だから邪魔出来ないね」
「ふーん」
劇のステージに火が移っても、リリスはさほど気にした様子はなかった。ただピヨをじっと見ている。幼いながらに彼女は「物より者」を理解しているのだろう。
「ピヨの周囲だけ結界で囲うか」
あまり延焼させても意味がない。すでに焼けた部分を隔離する形で結界を張った。高温に耐えるため、3枚張った結界が揺れる炎にあぶられて赤く光る。
「綺麗っ! パパの魔法は綺麗だから好き」
「ありがとう。できたらパパ本人も好きって言って欲しいな」
「……好きじゃない……わけない」
分かりにくい言い回しで「好き」と伝えてくれたリリスに頬を緩めながら、ルシファーは待った。徐々に炎が激しくなり、生き物が生存可能な温度を超える。そしてゆっくり鎮火し始めた。
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