魔王様、溺愛しすぎです!
169. ツンデレ期到来?
「この服は?」
「やだ!」
春らしい水色は却下された。その前に桜色も却下されている。汚すのを承知で白か? いや、クリーム色……淡緑という選択肢もあった。様々な色のワンピースを差し出すが、リリスは一向に首を縦に振らないのだ。
困ったルシファーを見かねたヤンが、横から口を出した。
「姫は何色の服がよいのですかな?」
グッジョブ! そうか、直接聞けばよかったのか! サムズアップでヤンを労うルシファーを他所に、リリスはじっとルシファーの背を見つめていた。
「ん? どうした」
微笑んで振り返ったルシファーの膝の上へよじ登り、ちょっと照れたように頬を染めて小さく何か呟いた。しかし小さすぎて声がよく聞こえない。
「リリス?」
「だからっ! パパと同じ色にするの!!」
聞き返されて怒鳴ったリリスが慌てて俯く。5歳になってから主張が以前より激しくなってきたが、ちょっとツンデレが入ってきた気がする。そんな変化すら可愛くて仕方ないルシファーはでれでれと笑み崩れながら、目の前の黒髪にキスを落とした。
「……パパの為なんだからね」
「うん、(恥ずかしくて言えないのは)分かってるよ」
蕩けそうな甘い笑みで誑かしにかかるルシファーの顔を、ぐいっと押しやって頬を膨らませる。しかしルシファーの指が触れると、ぷすっと空気が抜けてしまった。
リリス専用のカップに入れた冷たいお茶を手渡すと、ストローで何度もかき回す。冷やすならうんと冷えていないと嫌なのだ。先日告げられたばかりなので、こっそり氷を増やしてみた。かき回すリリスの頬は緩んでいて、気に入ったらしい。
「アリッサも、ルーシアも、みんなパパやママと同じ色にするからっ、だからリリスも同じにするだけだもん」
「ああ、お友達と一緒はいいね(オレは単純に嬉しいけど)」
最近は直接愛情を伝えると照れて叩かれたりするので、ちょっと遠慮がちに副音声と甘い笑顔で伝える魔王様である。女の子は早熟なので、5~6歳で中間的な反抗期がくるらしい。育児書を熟読して、すでに愛読書を通り越して丸暗記したルシファーは、頭の中でページを捲った。
魔の2歳児と思春期の間、5~6歳前後で反抗と甘えが混ざり合って消化できない時期があるのだ。今のリリスがそれに当たるだろう。甘えたい部分と、突き放して反抗しようとする部分が、上手に混ざらない。だからツンデレ行動に走っているようだ。
「……今日はアデーレがいないからお菓子作れないけど、明日は作ってあげる」
「本当か? それは嬉しいな! 早く仕事を切り上げるようにするよ」
今夜は徹夜で書類整理に追われるが、リリスのおやつを頂くためなら惜しくない。保育園も最年長クラスになったため、以前のように毎日おやつを作る時間が取れなくなってきた。
卒園式の出し物があるらしく、その準備に忙しいのだ。
すでに昨年卒園したルキフェルの場合だと、踊りがあった。全員で同じダンスを踊る中、ルキフェルだけ仏頂面だったのが印象的で、ベールは感涙をこっそり拭いていたっけ。
保育園側から届いた通知によれば、今年の出し物は劇だそうだ。どうやら御伽噺の類を演じさせるらしい。どんな話か公表されないが、毎日リリスがアデーレ相手に練習しているのは知っていた。内容は当日までお預けだと宣言されている。
「パパは白を着るから、リリスも白でいいかな?」
純白の天使――文字通り可愛いだろう。レースをふんだんに使って、銀糸の刺繍を入れてもいいな。浮かれたルシファーの頭の中で、白いドレスにはしゃぐ娘の愛らしい姿が踊った。
「……しかたないから、同じ白いの着る」
ぼそぼそと答えて、ほらっと飲み終えたカップを返してくる。お茶を注いでレモンを浮かべ、少しだけ蜂蜜を垂らす。いつも通りの手順でお茶を用意すると、最後に魔法で作った氷で一気に冷やした。からん…と氷の音を聞いて、リリスが再び手を伸ばす。
「どうぞ、お姫様」
「…ありがと」
お礼だけはしっかりする。ちゃんと謝罪もできる。他人の痛みも思いやれるし、自分より目下の者に傲慢に振舞ったりしない。それだけ出来ていれば、今のリリスに対して望むことはないルシファーは頬を緩めて「どういたしまして」と返した。
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