魔王様、溺愛しすぎです!
155. お菓子つくりたい
突然のたまう幼女と手を繋いで歩きながら、ルシファーはゆっくり首をかしげた。お揃いでポニーテールにしたため、背の純白の髪がさらりと流れる。真似をしたのか、リリスも同じように黒髪を傾けた。
「もちろん応援するよ。リリスが作るお菓子が楽しみだ。突然思いついたの?」
まずは味方であることと、反対していない表明は大事だ。その上で、誰かの入れ知恵じゃないか確かめる必要があった。
つい先日までリリスはおままごとに凝っていた。かなり危険な、巻き込まれた奴が人族なら命がなくなりそうな遊びだが、入れ知恵をしたベルゼビュート大公の存在が明らかになったのだ。彼女はしっかり粛清されたが、同様の事件ならば防がねばならない。主に身の危険を回避するために……。
朝日眩しい散歩時間は、少し離れて護衛するヤンのお陰で今日も平和だった。そう、ちょっと矢やファイアーボールが飛んできた程度だ。それらを無造作に結界で撥ね退けながら、ルシファーはリリスの答えを待った。
「あのね、ルーシアはお菓子作ったの。ルーシアがパパにあげたら、美味しくて……それで」
自分でも一度に沢山伝えようとし過ぎて、何を言おうとしていたのかわからなくなったリリスが、続きを考えながら指を咥えた。赤ちゃんの頃によく見せていた仕草だが、困ったりすると今でも見せる。見慣れた癖に可愛いと頬を緩ませ、ルシファーが助け舟をだした。
「もしかして、パパにも作ってくれるのか? だったら嬉しいな。きっとリリスが作るお菓子は凄く美味しいぞ、楽しみだ」
「うんっ! リリスがパパの作る」
嬉しそうにはしゃぐ幼女と歩く後ろから再び矢が飛んでくる。ひらっと手を振って蝿のように弾いたルシファーは振り返らない。後ろでフェンリルに襲われる人族の悲鳴は、リリスに届かぬよう結界で遮断した。
先ほどリリスの口から出たルーシアという名は、ルシファーも聞き覚えがある。たしか、水の妖精族で貴族家だったはず。遠足の際にリリスに友人として紹介された。
魔族においての貴族とは『一族の監督責任やまとめ役』程度の認識しかない。つまり、特権階級ではなかった。そのため貴族は裕福な存在ではなく、意外と庶民的な家庭も少なくない。貴族令嬢であるルーシアが自ら菓子を作るという話も、よくある日常の一場面だろう。
「今日は保育園休みだから……今日やる」
「そうだね、よく数えられたな。お菓子作りはアデーレにも手伝ってもらおうか」
日付の感覚がしっかりしてきたリリスは、指を倒して休日を数えた。今日は休みだと嬉しそうに笑うから、しゃがみこんで抱き締める。同じシャンプーの香りがする黒髪に頬ずりした。
以前に食事用として作った白いエプロンはまだ使えるだろうか。抱き上げようと手を回した途端にリリスがぺちんと叩いた。
「パパ、お散歩は歩くのよ。抱っこはダメなの」
アスタロトが口にする注意を覚えてしまったらしい。仕方なく抱っこを諦めたルシファーは再び手を引いて歩き出した。
「我が君、あの獲物はもらっても構いませぬか?」
「ああ、やるぞ」
興味がない襲撃者の話を一言で片付ける。嬉しそうに尻尾を振ったヤンが、駆け寄った魔狼達に獲物を分け与えていた。どうやら自分が食べる分じゃないらしい。
「パパぁ、ヤンも狩りするの?」
「リリスと同じくらい上手だよ」
にっこり笑って肯定しながら、彼女が振り返ろうとするのを何とか留める。手に馴染んだ純白の髪を少しだけ掴んだリリスは、にっこり笑って歩き出した。ポニーテールをしているため、いつもより上に持ち上げられた毛先が、ちょうど幼女の手にぴったりなのだ。
「ヤンと一緒に狩りしたい~」
「パパも一緒に連れて行ってほしい」
危険の有無ではなく、寂しいから仲間に入れて欲しいと呟けば、リリスは目を見開いた。驚くような発言だったかと立ち止まったルシファーへ、リリスは「パパが一緒じゃないわけないじゃん」と返して大いに喜ばせた。
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